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よもやま話

microCMSをやめた日

microCMSをやめた日

アーム代表の伊藤です。
昨夜、うちのサイトのmicroCMSをやめました。不満はひとつもないんです。記事を書く人もいます。私です。いなくなったのは、管理画面に原稿を入れる人でした。入稿しているのはAIで、私は管理画面を最後に開いた日を思い出せませんでした。思い出せないまま解約ボタンを押しています。

誰も来ない受付に、月1万2千円

請求ページを開いて、初めて金額をまともに見ました。税込11,990円。年にすると14万4千円です。何に払ってるんだっけ、と考えて詰まりました。

記事を書くのは私です。ただし書いた原稿を入れるのも画像を上げるのも公開ボタンを押すのも、全部AIの仕事になっていました。私の場合はClaude Codeです。管理画面は誰も来ない受付だったわけです。受付は毎月きちんと請求書だけ送ってくる。律儀か。

仕事をしていないのは受付じゃなくて、そこに誰も行かせていない私のほうなんですよね。

受付は暇。裏方は忙しい

正確に言うと、受付は使っていなかったけれど裏方は使っていました。原稿の置き場所、AIが出入りするAPI、画像の配信。今回やったのは受付の撤去というより、その裏方を自分で持てると分かったから持った、という話です。

次の請求日は2日後でした。ここから先は間に合うかどうかの話です。

「一人でやっている」の正体

うちは代表ひとりのスタジオで、サイトの更新も私しかやりません。そう言い続けてきましたが、正確じゃなかった。実態は私とAIの2人体制です。

microCMSにした理由は、全部まっとうだった

先に言っておくと、microCMSを選んだ理由に間違いはありませんでした。

  • 他の案件で使っていて慣れていた
  • 当時はAIに入稿させるなんて発想がなかった
  • いずれチームを組んでサイトを更新するつもりだったので、人が複数で使える管理画面が要ると思っていた

3つとも本当です。そして3つとも、今は当てはまりません。チームは組まなかった。入稿はAIになった。慣れは、慣れる相手が変わった。理由が正しかったことと、いまも正しいことは別なんですよね。

柵を立てるのがうまくなった夏

この2人体制がCMSの管理画面と相性が悪い。管理画面は人がブラウザで開いて目で見て手で打つために作られています。AIはそこを通りません。APIという裏口から入る。で、裏口には表からは見えない段差がいくつもあるんです。

下書きのつもりで保存したら即公開される。本文が途中で切れる。保存したはずの部品が消える。公開したのに本番は古いまま。こういう落とし穴を8つ数えたところで、私は穴の周りに柵を立てる専用の道具を作りました。この夏の話です。柵は立派でした。穴を1つ踏むたびに1本増えて、道具の説明書は穴の一覧表になっていく。実物がこれです。

踏んだもの

起きること

原因

下書き保存

下書きにならず公開版が上書きされる

こちらの道具の指定漏れ

長い本文

途中で切れて保存される

こちらが不正なHTMLを送っていた

部品の目印

サイト側で差し替える目印が消える

こちらの手順

公開直後

本番が旧版のまま。反映は数分後

サイトの再生成待ち

見出しの変更

見出しのidが振り直され、目次のリンクが切れる

microCMSの仕様

先に白状すると、原因の大半はmicroCMSではなくこちらの連携です。自分で掘った穴に、自分で柵を立てていた。

道具の不便を別の道具で埋めている。何をしているのか。

柵を増やすほど、何を守っているのか分からなくなる。

ちなみにその柵の道具も、今回まとめて要らなくなりました。作った本人が一番笑ってます。柵が全部なくなったわけではないんです。移行先にも検査は置いていて、数えたら182項目ありました。むしろ増えている。減ったのは柵の本数ではなく、他人の土地に立てていた柵のほうです。柵のいらない暮らしではなく、自分で把握できる範囲に庭を小さくした、というほうが近い。

参考にした2つの移行記が、揃って同じ条件を書いていたのも決め手でした。一人で書いているから成り立つ、という条件です。うちはその内側にいました。

解約RTA。請求日まで2日、記録は1時間53分

9月9日の21時50分に走り始めて、23時43分に本番が切り替わりました。走破1時間53分。時系列はこうです。

時刻

やったこと

結果

21:50

いまのサイトをmicroCMSから組み立てて、全ページの完成品を控える

答え合わせの基準ができた

21:54

記事や実績など181件をファイルに移し、ファイルから組み立て直す

移した直後の答え合わせで、195ファイルが1バイトも違わない

22:04

画像114枚を自前に移し、幅ごとの複製を877枚つくる

解約しても画像が消えない

22:10〜

別のAIにレビューさせて3往復

指摘20件超を修正

23:42

マージ

23:43に本番が切り替わる

今朝

支払いを止める

CMS利用料 0円

つまりこの夜いちばんの成果は、読者から見えるページが何も変わっていないことでした。裏側はかなり変えています。画像の置き場所も予約公開の仕組みも別物になった。その引っ越しを読者に気づかせないのが目標でした。なお1バイトも違わないのは原稿を移した直後の話で、最後の答え合わせではOG画像の高さと日付の表記で4件だけ、想定どおりの差が出ています。

意地悪は、括弧の中に書いてあった

レビューの相手は別のAIです。書いたAIの仕事を別のAIに「雑なところはないか意地悪く見てほしい」と頼む。返ってきた1通目がこれでした。

ブロッカーは見つかりませんでした(が、直したい箇所が5件あります)。

この括弧の中身が毎回いちばん長いんですよね。

人間が押したのは、ボタン2つ

このRTAで人間が押したのは実質2つです。

  • 「マージして」の一言
  • 解約ボタン

あとは検証の結果を読んで、出すかどうかを決めただけです。

この夜の前と後

項目

原稿の置き場所

microCMSの管理画面の中

自分のリポジトリの中

手元でサイトを組み立てる時間

1分58秒

4秒

CMS利用料

税込11,990円/月

0円

人間が押したもの

管理画面のボタン

「マージして」と解約ボタン

4秒は速すぎて、最初は失敗したのかと思いました。請求書は消えました。でも仕事が消えたわけではありません。外に任せていた仕事の一部を、自分のリポジトリに引っ越しただけです。移せたことは昨夜確認できました。楽に持ち続けられるかは、これからです。

移行で見えた、うちの運用

やめて分かったことが3つあります。失ったものより、自分の側の癖が見えた、という種類の発見です。

頼んだ覚えのない拡大は、私が頼んでいた

うちのアイキャッチは幅1,200ピクセルで作っています。microCMSの画像サーバーはそれを1,400ピクセルに引き伸ばして配っていました。83枚分。頼んでない、と最初は思いました。調べたら、サイト側のコードに幅1,400を書いたのは私で、画像サーバーは言われた通りに拡大しただけでした。気を利かせたのは向こうではなく、私の設定が大雑把だった。その分の転送量はこちらの枠から減っていたわけです。自前に移したら、原寸より大きい画像は作らないと決めるだけで済みました。

切ったつもりの設定

「使わない機能を切る」と書いたつもりの一行が、その名前の設定として存在していなかったんです。書いたのは私です。3週間、切ったつもりでいました。レビューのAIが見つけるまで誰も気づいていない。穴を8つ数えて柵を立てた人間が、自分の家の鍵を掛け忘れていた。情けない。

予約公開という名の見回り

予約公開はmicroCMSにあってファイル管理にはない機能の代表格ですね。無いなら作るしかない。毎時5分に「公開日時を過ぎた記事はないか」を見に来て、あれば本番を組み直す定期実行を置きました。うちには時刻ぴったりの公開が要りません。毎時の確認と再生成で十分でした。

つまり便利さの正体は、大半が「誰かが代わりに見回っていること」なんです。その見回りが自分の要件に対して大きすぎないかは、いったん外してみないと分からなかった。

誰にでも勧めるかというと、勧めません

ここまで読んで「うちも外そう」と思った方に、先に線を引いておきます。判定に使うのは道具の名前ではなく人数です。

更新1回に挟まる人

管理画面

2人以上(広報担当が書いて誰かが確認する)

要る

自分だけで、エディタより管理画面のほうが楽

要る

自分だけで、原稿はテキストファイルで書いている

外せる可能性がある

AIが入稿し、確認する人が別にいる

要る

AIが入稿し、確認も自分ひとり

外せる可能性がある

ただし、ファイルでの運用と、公開の仕組みの保守を自分で引き受けられることが前提です。

それでも案件ではmicroCMSを使います

誤解のないように書いておくと、いま進めている案件でもmicroCMSで組んでいます。更新する人が複数いて、その人たちはエンジニアではなく、下書きを見て確認する人が別にいる。この条件が揃ったサイトで、管理画面より安い解を私は知りません。私がやめたのは「私ひとりとAI」のサイトでの話で、microCMSが悪いという話では一度もないです。だから解約フォームで手が止まった。

CMSを入れるべきか迷っている段階の方はヘッドレスCMSとは?導入事例18社に共通していた条件と、選ぶ前の3つの判断のほうが役に立ちます。判断1の「更新1回にいま何人挟まっているか」が、この記事の結論の親です。料金の内訳はmicroCMSの料金プランに書いてあるので、ここでは繰り返しません。

AIが入稿する時代に、CMSは何を売るのか

この話は、うちの節約の話で終わらないと思っています。

CMSが売っていたものを分解すると3つです。原稿を置く場所。人が書くための画面。人が確認して公開するための仕組み。「置く場所」はファイルとgitで済むことが今回はっきりしました。「書くための画面」はAIが書くなら使われない。で、最初は「残るのは3つ目だ」と書こうとして、書きながら怪しくなりました。

「確認して公開する」は、ほどくと3つに分かれます。

  • 確認する。誤字、リンク切れ、事実との整合、表記ルール。基準を文章にできるものは、AIや自動検査に回せる
  • 公開を決める。低リスクの記事なら、基準を満たせば自動で出す運用も組める
  • 責任を負う。問題が起きたとき誰が説明して直すか。これはAIの能力とは別の話

責任を負う人が要ることと、その人が毎回承認ボタンを押すことは同じではないんですよね。うちの記事は、いまも構造の検査とビルドが機械で通ってから出ています。押しているのはボタンではなく、出してよい条件のほうです。ただし機械で通るのは構造まで。中身が正しいかは、まだ私が読んでいます。

売っていたもの

AIが入稿すると

原稿を置く場所

ファイルとgitで足りる

人が書くための画面

使われない

人が確認して公開する画面

例外対応の場所になる。毎回は使わない

公開してよい条件、権限、履歴、戻す仕組み

要る。ただしCMSから買うとは限らない

必要な機能が残ることと、CMS各社がその機能で稼げることも別です。承認や履歴が大事でも、手元の開発基盤で足りるなら、それはCMSに払う理由になりません。うちの移行は、その一部をCMSの外に持ち出した実例のひとつです。

だから、画面を人が使うことを前提にした価値は、承認画面も含めて問い直される。残るのは人が押すボタンではなく、何を自動で公開してよいかを決め、問題があれば戻せる仕組みです。私の予想なので、外れたら笑ってください。

解約理由(必須)

今朝、解約画面を開きました。「停止する」の赤いボタンの上に、解約理由という必須欄があります。選択肢は3つ。microCMSへの不満、案件終了のため、その他。

不満はないし、案件も終わってない。その他を選ぶと自由記入欄が開きました。

ここで手が止まったんです。不満を書けと言われて、不満がない。困る。ここまで書いてきた理由は全部本当なんですが、「あなたのせいではない」を相手の解約フォームに書くのは妙に難しい。結局こう書きました。更新する人が自分一人で、入稿も修正もAI経由になったので、編集画面を持つCMSの必要がなくなりました。製品への不満はありません。

送信して、支払いが止まりました。管理画面を最後に開いた日は思い出せないままです。代わりに、最後に閉じた日を覚えることになりました。

ちなみにその少しあと、サイトの技術構成を判定するブラウザの拡張機能を見たら、まだ「CMS: microCMS」と表示していました。拡張機能側の記憶が前の日のままだっただけです。サイトより先に、道具の記憶が消えるのを待っている。脱microCMSの最後の工程はそれでした。

理由の賞味期限

導入したときの理由が正しくても、運用が変わったら見直していい。理由にも賞味期限があって、うちのはとっくに切れていました。気づいたのが昨夜だっただけです。

その道具を選んだ理由は、いまも残っていますか。

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アーム代表 伊藤 悠希

代表伊藤 悠希

アームは、東京・三軒茶屋を拠点に活動している個人のデザインスタジオです。