
アーム代表の伊藤です。
準委任の履行割合型は固定給ではありません。精算幅の中にいるあいだ月額が動かないだけで、下限を割れば控除され、上限まで働いても1円も増えません。この記事では、報酬がどう決まり、どこで損が出るのかを、条文と計算の両方から最後まで追います。
こんな方におすすめのコラムです
- 「月額いくらの契約だから、稼働が少ない月でも同じだけもらえると思っていた」という方
- 「精算幅って結局なんのためにあるのか、誰も説明してくれない」という方
- 「今月は稼働が伸びなかった。請求してみて初めて控除に気づいた」という方
- 「相手の都合で作業が止まった月の報酬は、どうなるのか分からない」という方
- 「準委任は成果物の責任がないぶん、報酬も安定していると聞いた」という方
まず、契約の種類を整理する
報酬の話に入る前に、自分がどの契約を結んでいるのかを確かめます。ここを取り違えたまま報酬の条項だけ見ても、何が起きているのか分かりません。
請負・準委任・派遣は「何にお金が払われるか」で分かれる
引っ越しにたとえると分かりやすくなります。請負は「引っ越しを終わらせる」契約、準委任は「引っ越しを手伝う」契約です。前者は荷物が全部運び込まれて初めて代金が発生し、後者は手伝った時間や作業そのものに対して発生します。派遣はもう一段違って、指示を出すのが受け入れ先の会社になります。
契約の種類 | お金が払われる対象 | 指示を出すのは | 根拠 |
|---|---|---|---|
請負 | 仕事の完成。納品して初めて代金が発生する | 受注側の自分 | 民法632条 |
準委任 | 事務の処理そのもの。完成は約束しない | 受注側の自分 | 民法656条・644条 |
派遣 | 労働時間。雇用されているのは派遣元 | 派遣先の会社 | 労働者派遣法 |
準委任は「完成を約束しない」かわりに、民法644条で善管注意義務を負います。善管注意義務とは、その立場の人として通常期待される注意をもって仕事をする義務のことです。手を抜けば責任を問われますが、成果が出なかったこと自体の責任は負いません。
準委任には2つの型がある
準委任はさらに2つに分かれます。この区別が、報酬の動き方をほぼ決めます。
履行割合型 | 成果完成型 | |
|---|---|---|
報酬の対象 | 事務を処理した割合 | 得られた成果 |
お金の発生 | 働いた分だけ積み上がる | 成果を引き渡したとき |
根拠 | 民法648条 | 民法648条の2 |
向く仕事 | 運用支援、常時の相談対応、改善の伴走 | 調査レポート、設計書の作成 |
線引きは「何にお金が払われているか」です。同じ準委任でも、報酬の動き方はまったく違います。契約書の表題が業務委託契約書でも、中身はこのどちらかになっています。
民法648条が定めているのは「特約がなければ報酬は請求できない」
ここは誤解が多いところです。民法648条1項はこう定めています。
受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
受任者とは仕事を受ける側、つまり自分のことです。委任者は発注する側を指します。条文が言っているのは、委任は原則として無償で、報酬をもらうには特約が要るということです。
「準委任だから月額固定」という性質は、民法のどこにも書かれていません。月額固定に見えるのは、当事者がそう合意したからにすぎません。裏を返せば、報酬の決まり方は契約書に書いてあることが全部です。書いていないことは起きません。
準委任の履行割合型は固定給ではない
私も以前、精算幅のある準委任契約で働いていた時期がありました。下限を割る月が実際にあり、そのときに初めて分かったのが、この契約が固定給とはまるで違う挙動をすることでした。
精算幅とは何か
精算幅とは、月額報酬が変わらない稼働時間のレンジです。実務でよく見るのは140〜180時間で、この中に収まっているかぎり、140時間でも180時間でも報酬は同じになります。
食べ放題を思い浮かべてください。制限時間の中なら、3皿食べても10皿食べても値段は同じです。たくさん食べるほど、1皿あたりの値段は下がっていく。精算幅の中で起きているのは、これとまったく同じことです。
ただし食べ放題と決定的に違う点があります。規定に届かなかったとき、この契約では代金が引かれます。ジムの月会費なら、行かなくても満額を取られるだけで済みます。準委任の履行割合型は、行かなければ会費のほうが減っていく、珍しい仕組みです。
月額が動かないのは、精算幅の中にいるあいだだけ
問題は幅の外側です。下限を割れば控除単価で引かれ、上限を超えれば超過単価で足されます。控除単価とは下限に足りなかった時間ぶんを差し引く単価、超過単価とは上限を超えた時間ぶんを加算する単価のことです。
幅の中では時間が報酬に反映されず、幅の外に出た瞬間だけ反映される。この非対称が、あとで効いてきます。
下限を割ると控除が効く
ここからは具体的な数字で見ます。分かりやすさのため、月額48万円・精算幅140〜180時間・基準時間160時間というモデルで計算します。基準時間とは、単価を計算するときの分母になる時間です。単価は48万円を160時間で割った3,000円になります。
稼働が100時間だった月は、下限140時間との差40時間ぶんが控除されます。40時間に3,000円を掛けた12万円が引かれ、報酬は36万円です。月額48万円の契約という認識のまま12万円減るので、請求書を作る段階で気づくと精神的にこたえます。
精算幅の中で、実質時給は1.29倍変わる
同じ月額でも、何時間働いたかで実質時給は変わります。上のモデルで一覧にします。
稼働時間 | 報酬 | 実質時給 |
|---|---|---|
0時間 | 60,000円 | 算出不可 |
60時間 | 240,000円 | 4,000円 |
100時間 | 360,000円 | 3,600円 |
140時間(下限) | 480,000円 | 3,429円 |
160時間(基準) | 480,000円 | 3,000円 |
180時間(上限) | 480,000円 | 2,667円 |
200時間 | 540,000円 | 2,700円 |
最も割がいいのは下限ちょうど
表を見ると、幅の中で最も実質時給が高いのは下限ちょうどの140時間です。そこから上限の180時間まで40時間ぶん働いても、報酬は1円も増えません。時給は3,429円から2,667円まで下がります。その差は1.29倍です。
時給が最も低くなるのは上限ちょうど
表には反直感的な行があります。180時間を超えて200時間働くと、時給は2,700円へ少し戻ります。超過分に単価が付くからです。
この契約で最も割が悪いのは、上限ちょうどまで働いた瞬間です。そこが底で、それ以上働けば少し改善します。真面目に上限まで埋めた人が一番損をする設計になっている、と言うこともできます。
精算幅の上下比が、そのまま時給の変動幅になる
数字を入れ替えても比率は変わりません。上限180を下限140で割ると1.286です。たとえば精算幅が70〜90時間の契約でも、90を70で割れば同じ1.286になります。
つまり自分の契約の精算幅の上限を下限で割れば、時給が何倍動くかがすぐ出ます。幅が広い契約ほど、この数字は大きくなります。120〜180時間なら1.5倍です。契約書を見たら、まずこの割り算をしてみてください。
単価の基準時間と、精算幅の下限はズレている
もう一段細かい話をします。単価は月額を基準時間で割って決まりますが、その基準時間と精算幅の下限は一致していません。
モデルでは基準時間160時間に対し、下限は140時間です。同じ契約書の中に、物差しが2本ある状態だと思ってください。1本目は単価を決めるための160時間、2本目は控除の起点になる140時間です。
この20時間ぶんの差が何かというと、下限ちょうどで働いた月に発注側が受け取っている余剰です。悪いことではありません。稼働の変動を吸収するための幅なので、そういう設計です。
ただ、受け取る側から見ると意味が変わります。下限を1時間でも割れば控除が始まるのに、下限から基準時間までの20時間は自分の取り分にならない。ここを理解しないまま「月額いくらの仕事」と考えていると、稼働の見積もりを外します。
そもそも、何が稼働時間に入るのか
下限に届くかどうかを左右するのに、意外と決まっていないのがこれです。契約書に「稼働時間に応じて」と書いてあっても、何を稼働時間として数えるかまで書かれていることは多くありません。
迷いやすい5つ
作業 | 数えられることが多いか | 確認しておきたいこと |
|---|---|---|
定例の打ち合わせ | 数える | 準備と議事録の作成も含むか |
チャットでの相談対応 | 分かれる | 細切れの対応をどう積むか |
資料や既存コードの読み込み | 分かれる | 着手前の理解も業務に含むか |
常駐先への移動 | 数えないことが多い | 指定された場所への移動の扱い |
待機の時間 | 数えないことが多い | 指示待ちで動けない時間の扱い |
ここが曖昧なまま進むと、月末に自分で判断する羽目になります。控えめに付ける癖がついている人ほど、下限を割りやすいのが実際のところです。当時の私も最初はチャットの対応を数えていませんでしたが、積み上げると月に数時間あることに気づきました。
15分単位の端数は、月末にまとめて効く
精算の単位が15分なら、14分の作業は0分として扱われます。1日1回それが起きるだけで、月20日で約4時間ぶんが消えます。端数の切り捨ては、1回ずつは小さくても月単位では下限を割る原因になります。
対策は単純で、作業のたびに記録することです。あとから思い出して書くと、必ず短く見積もります。記録の粒度がそのまま報酬になる、と考えたほうが実態に合います。
相手の都合で作業が止まった月はどうなるか
準委任でいちばん不安になるのがここです。自分は動けるのに、渡される業務がない月があります。
民法648条3項が答えを用意している
条文にはこうあります。
受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。二 委任が履行の中途で終了したとき。
むずかしい言い回しですが、途中までしかできなかった場合でも、やった分は請求できるという意味です。全部できなかったから全部ゼロ、にはなりません。
ただし契約書の条項が優先する
ここで注意が要ります。民法のこの規定は、当事者が別の合意をしていればそちらが優先します。精算幅と控除単価を定めた契約は、まさにその別の合意にあたります。
つまり「相手都合で止まったから満額もらえるはず」とは限りません。契約書に「稼働時間に応じて精算する」と書いてあれば、止まった理由が誰にあるかとは関係なく、時間で計算されます。条文を持ち出す前に、まず自分の契約書を読むのが先です。
実務では、止まる前に伝える
条文で戦うより、止まりそうだと分かった時点で伝えるほうが早く解決します。「今月このままだと下限に届きません」と月の中頃に言えるかどうかで、結果がまるで変わります。
相手にとっても、月末に請求書が来てから知らされるより、前倒しで依頼を出す判断ができたほうが助かります。報酬の話は、請求のときではなく稼働の途中にするものだと考えてください。
契約が途中で終わったらどうなるか
もうひとつ、準委任には請負と大きく違う点があります。民法651条1項です。
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
いつでも解除できる、が原則になっている
準委任は、どちらの側からもいつでも終わらせられるのが原則です。これは受ける側にとって、来月も同じ報酬がある保証はどこにもない、という意味になります。継続前提で生活設計をしていると、ここでつまずきます。
もちろん実務では契約期間や更新の条項を置くのが普通で、いきなり切られる例は多くありません。ただ原則がこうなっていることは知っておいて損はありません。
不利な時期の解除には損害賠償がある
同じ651条の2項に、相手方に不利な時期に解除したときは損害を賠償しなければならない、という定めがあります。やむを得ない事由があったときは除かれます。
完全に無防備というわけではない、ということです。ただし賠償を請求する側にとっては、不利な時期だったことも損害額も自分で立証する必要があるので、簡単な話ではありません。期待するより、更新の意思を早めに確認しておくほうが現実的です。
フリーランス新法が守ってくれること
民法とは別に、2024年11月に施行された法律があります。正式には特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律で、フリーランス新法と呼ばれています。個人で受託している人を対象にした法律なので、準委任で働いているなら直接効いてきます。
報酬の額と支払期日は、明示しなければならない
同法3条は、業務委託をした場合は直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日などを書面または電磁的方法で明示しなければならない、と定めています。口約束だけで始めてよい契約ではなくなりました。
精算幅や控除単価は「報酬の額」の決まり方そのものなので、ここに含まれると考えるのが自然です。条件が曖昧なまま始まりそうなときは、この条文を根拠に書面化を頼めます。角を立てずに言うなら「あとで揉めないように、条件を一度書き出しておきたい」で十分伝わります。
支払いは受領日から60日以内
同法4条1項は、報酬の支払期日について、給付を受領した日から起算して60日の期間内で、かつできる限り短い期間内に定めなければならない、としています。検査をするかどうかは関係ありません。
さらに2項で、支払期日が定められなかったときは受領した日が、60日を超えて定められたときは受領日から60日を経過する日が、それぞれ支払期日とみなされます。末締め翌々月末払いのような条件は、この規定に触れる可能性があります。
準委任の報酬は稼働の後に確定するので、入金までの期間が長いほど手元の資金が薄くなります。稼働が読めない契約では、この期間の短さが効いてきます。条件を見るときは、金額と一緒に支払期日も見てください。
請負なら違ったのか
ここまで読んで、請負のほうがよかったのではと思うかもしれません。比べておきます。
準委任の履行割合型 | 請負 | |
|---|---|---|
報酬の発生 | 稼働した時間や割合に応じて | 仕事を完成させたとき |
入金のタイミング | 稼働した月ごとに請求できる | 完成して検収が終わるまで請求できない |
依頼が少ない月 | 稼働が伸びず報酬も減る | 受注した案件の代金は発生する |
完成できなかったとき | やった割合で請求できる(648条3項) | 可分な部分で注文者が利益を受ける範囲(634条) |
途中で切られたとき | いつでも解除が原則(651条) | 注文者は損害を賠償して解除できる(641条) |
成果物の責任 | 負わない。善管注意義務は負う | 負う |
どちらが有利かは一概に言えません。請負は納品すれば代金が立つかわりに、完成の責任を負います。準委任は完成の責任を負わないかわりに、報酬が自分の稼働量に縛られます。責任と収入の安定を交換している、と考えると整理しやすくなります。
請負は、完成しないと1円も入らない
もうひとつ、表の「入金のタイミング」の行が、生活にはいちばん重く効いてきます。
民法632条は、請負を「仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約と定めています。結果に対して払われるので、完成が遅れれば、その分だけ入金も遅れます。
やっかいなのは、遅れの原因が自分にあるとは限らないことです。戻しが1ヶ月後に来る、修正が何度も往復する、確認待ちで止まる。どれもこちらからは動かせません。それでも完成していない以上、請求の根拠が立ちません。
制作の現場では、修正の往復が終わらずに半年納品できないまま、代金も回収できていない、という声を見かけます。半年分の生活費を先に出しているのと同じことで、個人でやっているところには遠すぎます。
防ぐには、契約のときに分けておくしかない
このリスクを下げる方法は、着手金と中間金を先に決めておくことです。着手時に何割、デザイン確定時に何割、公開時に残り、という分け方が一般的です。
ここで大事なのは、分割の話は契約のときにしかできないということです。遅れ始めてから「途中までの分を請求させてほしい」と言うのは、相手にとっても根拠のない要求になります。金額と同じくらい、いつ入るかを最初に決めてください。
なお、分割を決めていても、各回の支払期日はフリーランス新法4条の60日ルールの対象になります。分けた上で支払いが先送りされては意味がないので、そこまで含めて書面にしておくのが安全です。
稼働が読めない月に、この構造が効く
この設計が最も効くのは、稼働が予定どおりにいかない月です。
長期休暇のある月は営業日そのものが減ります。相手方の都合で作業が止まる月もあります。準委任は仕事の完成を約束していないので、渡される業務が少なければ稼働は伸びません。そして稼働が伸びなければ、下限を割って控除されます。
「今月は依頼が少なかった」は、そのまま「今月は報酬が少ない」になります。
連休のある月は、1日あたりの必要時間が上がる
ここは計算すると分かりやすくなります。下限140時間に届くために、1日あたり何時間必要かを営業日数ごとに出しました。
その月の営業日 | 下限140時間に届く1日あたり | 上限180時間なら |
|---|---|---|
22日(通常の月) | 6.4時間 | 8.2時間 |
20日 | 7.0時間 | 9.0時間 |
19日(3日休む月) | 7.4時間 | 9.5時間 |
17日(5日休む月) | 8.2時間 | 10.6時間 |
同じ下限に届くのに、連休のある月は1日あたり2時間近く多く働く必要があります。22日の月なら6.4時間で足りたものが、17日の月では8.2時間になります。夏季休暇や年末年始の月に急に苦しくなるのは、依頼が減るからだけではありません。分母そのものが減っているからです。
厄介なのは、休んだ本人の感覚では「少し休んだだけ」で済んでしまうところです。3日休めば、残りの19日で毎日1時間ずつ多く働かないと同じ場所に着きません。休みの代金は、その月のどこかで必ず払っています。
1社に寄せるほど、この揺れが直撃する
取引先が1社だけだと、その1社の繁閑がそのまま自分の月収になります。準委任の履行割合型は特にそうで、相手が忙しくない月は自分も稼げません。
複数社と契約していれば、片方が薄い月にもう片方で埋められます。ただし精算幅のある契約を2つ持つと、両方の下限を追いかけることになって身動きが取れなくなります。精算幅のある契約は1つまでにして、残りは成果物ベースで持つ。当時はそこに行き着きました。
なお稼働時間そのものの決まり方については、業務委託デザイナーの朝会参加は任意?で別途扱っています。
よくある勘違いと、正しい理解
ここまでの内容を、勘違いされやすい順に3つだけ並べ直します。私が実際に取り違えていたものです。
よくある勘違い | 正しい理解 |
|---|---|
準委任は月額固定だから、稼働が少ない月も同じだけもらえる | 月額が動かないのは精算幅の中だけ。下限を割れば控除される |
成果物の責任がないぶん、報酬は安定している | 完成の責任を負わないかわりに、報酬が稼働量に連動する。安定とは別の話 |
相手の都合で止まったのだから、満額もらえるはず | 契約書に稼働時間で精算すると書いてあれば、理由にかかわらず時間で決まる |
3つに共通しているのは、「準委任」という言葉に安定のイメージを重ねてしまっている点です。準委任が保証しているのは、完成の責任を負わないことだけで、収入の安定ではありません。
準委任の履行割合型で契約前に確認する7つ
契約書と発注書を見るとき、次の7つを探してください。当時の契約で私が確認したのも、この7点でした。
確認すること | 見当たらない場合に起きること |
|---|---|
履行割合型か成果完成型か | 報酬の発生条件そのものを取り違える |
報酬の最低保証があるか | 稼働が伸びない月に、歯止めなく控除される |
精算幅の下限と上限 | 何時間から控除が始まるか分からない |
控除単価と超過単価 | 同額とは限らない。控除だけ高い契約もありうる |
単価の基準時間 | 下限との差が、自分の取り分にならない時間になる |
精算の単位 | 15分単位か1時間単位かで、端数の扱いが変わる |
契約期間と更新の条件 | いつまで続くのかが読めず、生活設計ができない |
最低保証の条項は、基本契約ではなく個別契約や発注書に書かれることが多い項目です。基本契約に金額の定めがなくても不備ではありませんが、発注書にも無ければ、下限は存在しません。
契約したあとにできること
すでに結んでしまった契約でも、打てる手はあります。
稼働を週次で見る
月末に集計して初めて分かる状態だと、打つ手がありません。週の終わりに累計時間を確認して、月の下限に対して何割まで来ているかを見ておきます。第2週の終わりで半分に届いていなければ、その月は危ないと判断できます。
届かない見込みが立ったら、早く言う
言いにくい話ですが、早いほど打てる手は多くなります。前倒しできる作業がないか、着手を早められる案件がないかを相談できるのは、月の前半だけです。
更新のときに交渉する
更新のタイミングは、条件を見直せる数少ない機会です。精算幅の下限を下げてもらう、最低保証を入れてもらう、基準時間を下限に合わせてもらう。どれも言ってみる価値があります。実績が出ている時期に言うのが、いちばん通りやすいです。
よくある質問
準委任契約は報酬なしなのですか?
民法648条1項は「特約がなければ報酬を請求できない」と定めているので、原則としては無償です。ただし実務では報酬の定めを置くのが通常で、その特約があれば当然に請求できます。無報酬という意味ではなく、報酬は契約で決めるものだという意味です。
精算幅は何のためにあるのですか?
発注側から見れば、月ごとの稼働の増減をいちいち精算せずに済ませるための仕組みです。受注側から見ても、多少働きすぎた月に減らされない安心はあります。双方にとっての簡便さと引き換えに、幅の中では時間が報酬に反映されなくなります。
精算幅がない契約のほうがよいのでしょうか?
一長一短です。時間単価に実稼働を掛ける契約なら、働いた分がそのまま反映されて分かりやすくなります。一方で、少し働きすぎた月に増えるかわりに、少なかった月は容赦なく減ります。どちらが合うかは、稼働の読みやすさで決まります。
履行割合型と成果完成型は、契約書のどこで見分けますか?
報酬の条項を見ます。稼働時間や工数に応じて支払うと書かれていれば履行割合型、成果物の引渡しをもって支払うと書かれていれば成果完成型です。表題が業務委託契約書でも、中身はこのどちらかになります。
下限を割りそうなとき、どうすればよいですか?
月の途中で気づけるように、稼働を週次で見ておくことです。月末に集計して初めて分かる状態だと、打つ手がありません。相手方に依頼の前倒しを相談できる関係なら、早い段階で伝えるほうが双方にとって楽です。
相手の都合で作業が止まった月も、報酬は減るのですか?
契約書の定め方によります。稼働時間に応じて精算すると書かれていれば、止まった理由にかかわらず時間で計算されます。民法648条3項は「既にした履行の割合に応じて」請求できると定めていますが、当事者が別の合意をしていればそちらが優先します。
最低保証は交渉して入れてもらえるものですか?
入る例はあります。ただし発注側にとっては稼働がなくても支払う約束になるので、簡単ではありません。最低保証そのものが通らないときは、精算幅の下限を下げる、基準時間を下限に合わせる、といった代案のほうが受け入れられやすい傾向があります。
準委任なのに時間で管理されるのは矛盾していませんか?
履行割合型は事務の処理量に応じて報酬を決める型なので、その物差しとして時間を使うこと自体は矛盾しません。問題になるのは、時間の使い方そのものを指示されている場合です。報酬の計算に時間を使うことと、働き方を指示されることは別の話です。
まとめ
準委任の履行割合型は固定給ではありません。月額が動かないのは精算幅の中にいるあいだだけで、下限を割れば控除され、上限まで働いても増えません。民法648条は「特約がなければ報酬を請求できない」と定めているだけで、月額固定という性質を準委任に与えてはいません。
精算幅の中では、下限ちょうどが最も実質時給が高く、上限ちょうどが最も低くなります。その差は上限を下限で割った比そのままで、140〜180時間なら1.29倍です。真面目に上限まで働いた月が、いちばん割が悪くなります。まず自分の契約書で、上限を下限で割ってみてください。
そして準委任は、民法651条によっていつでも解除できるのが原則です。相手の都合で止まった月の扱いも、契約書の条項が民法に優先します。書かれていないことは起きません。逆に、書かれていることは必ず起きます。契約前なら7つの確認項目を、契約後なら週次の稼働確認と更新時の交渉を。ここまでやっておけば、月末に請求書を作りながら青くなる回数は確実に減ります。




