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準委任の履行割合型は固定給ではない|精算幅の下限が、指揮命令の境界にもなる仕組み

準委任の履行割合型は固定給ではない|精算幅の下限が、指揮命令の境界にもなる仕組み

アーム代表の伊藤です。
準委任の履行割合型は、固定給でも時給そのものでもありません。精算幅の中にいるあいだ月額は動かず、下限を割れば控除され、上限まで働いても1円も増えません。

この非対称のいちばん怖いところは、下限に届かせようとした指示が、いつのまにか働き方そのものへの指揮命令に変わることです。金額の話ではありません。基準時間に届いていないことを理由に残業を求められ、定時で帰ったら「非道徳的だ」と言われた、という相談が公開されています。

この記事では、精算幅の計算の仕組みから、どこまでが契約どおりでどこからが指揮命令に近づくか、稼働が止まった月や契約が終わる時の権利まで、条文と計算の両方で確認します。

まず、契約の種類を整理する

  • 請負は完成、準委任は処理に対価
  • 準委任は履行割合型と成果完成型
  • 民法648条は報酬に特約が要ると定める

報酬の話に入る前に、自分がどの契約を結んでいるのかを確かめます。ここを取り違えたまま報酬の条項だけ見ても、何が起きているのか分かりません。

請負・準委任・派遣は「何にお金が払われるか」で分かれる

引っ越しにたとえると分かりやすくなります。請負は「引っ越しを終わらせる」契約、準委任は「引っ越しを手伝う」契約です。前者は荷物が全部運び込まれて初めて代金が発生し、後者は手伝った時間や作業そのものに対して発生します。派遣はもう一段違って、指示を出すのが受け入れ先の会社になります。

3つの契約は、お金が何に対して払われるかで分かれます。

契約の種類

対象

指示/根拠

請負

完成後に代金発生

自分(民法632条)

準委任

処理自体に対価

自分(民法656条・644条)

派遣

労働時間に対価

派遣先(労働者派遣法)

  • 請負: 仕事の完成。納品して初めて代金が発生する。指示を出すのは受注側の自分。根拠は民法632条
  • 準委任: 事務の処理そのもの。完成は約束しない。指示を出すのは受注側の自分。根拠は民法656条・644条
  • 派遣: 労働時間。雇用されているのは派遣元。指示を出すのは派遣先の会社。根拠は労働者派遣法

準委任は「完成を約束しない」かわりに、民法644条で善管注意義務を負います。善管注意義務とは、その立場の人として通常期待される注意をもって仕事をする義務のことです。手を抜けば責任を問われますが、成果が出なかったこと自体の責任は負いません。

準委任には2つの型がある

準委任はさらに2つに分かれます。この区別が、報酬の動き方をほぼ決めます。

履行割合型

成果完成型

報酬の対象

事務を処理した割合

得られた成果

お金の発生

働いた分だけ積み上がる

成果を引き渡したとき

根拠

民法648条

民法648条の2

向く仕事

運用支援、常時の相談対応、改善の伴走

調査レポート、設計書の作成

線引きは「何にお金が払われているか」です。同じ準委任でも、報酬の動き方はまったく違います。契約書の表題が業務委託契約書でも、中身はこのどちらかになっています。

民法648条が定めているのは「特約がなければ報酬は請求できない」

ここは誤解が多いところです。民法648条1項はこう定めています。

受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。

では、この条文は何を言っているのか

受任者とは仕事を受ける側、つまり自分のことです。委任者は発注する側を指します。条文が言っているのは、委任は原則として無償で、報酬をもらうには特約が要るということです。

「準委任だから月額固定」という性質は、民法のどこにも書かれていません。月額固定に見えるのは、当事者がそう合意したからにすぎません。裏を返せば、報酬の決まり方は契約書に書いてあることが全部です。書いていないことは起きません。

精算幅の中で、時給は契約書の数式ひとつで変わる

  • 実務の精算幅は140〜180時間が多い
  • 呼び名は「上下割」「中間割」などバラバラ
  • 下限ちょうどが最も実質時給が高い

私も以前、精算幅のある準委任契約で働いていた時期がありました。下限を割る月が実際にあり、そのときに初めて分かったのが、この契約が固定給とはまるで違う挙動をすることでした。

精算幅とは何か

精算幅とは、月額報酬が変わらない稼働時間のレンジです。実務でよく見るのは140〜180時間で、この中に収まっているかぎり、140時間でも180時間でも報酬は同じになります。

食べ放題を思い浮かべてください。制限時間の中なら、3皿食べても10皿食べても値段は同じです。たくさん食べるほど、1皿あたりの値段は下がっていく。精算幅の中で起きているのは、これとまったく同じことです。

食べ放題と1つだけ違う点

ただし食べ放題と決定的に違う点があります。規定に届かなかったとき、この契約では代金が引かれます。ジムの月会費なら、行かなくても満額を取られるだけで済みます。準委任の履行割合型は、行かなければ会費のほうが減っていく、珍しい仕組みです。

呼び方はバラバラ、確認すべきは契約書の数式そのもの

精算幅の計算方式には「上下割」「中間割」「中抜き」といった呼び名があります。ただし同じ呼び名でも、会社によって指す計算式が違います。ある解説は「上下割」を下限用と上限用で別々の単価を使う方式として説明し、別の解説は基準時間ひとつからの差分に単一の単価をかける方式を同じ「上下割」と呼んでいました。「中間割」も、精算幅の外側では一切調整しない方式を指すものと、精算幅の中央を基準に単価をかける方式を指すものの両方がありました。名前を信じるのではなく、契約書に書かれた数式そのものを確認してください。次で見るこの記事のモデルは、基準時間からの差分に単一の単価をかける方式です。

このモデルでは、下限ちょうどが最も割がいい

ここからは具体的な数字で見ます。分かりやすさのため、月額48万円・精算幅140〜180時間・基準時間160時間というモデルで計算します。基準時間とは、単価を計算するときの分母になる時間です。単価は48万円を160時間で割った3,000円になります。

稼働が100時間だった月は、下限140時間との差40時間ぶんが控除されます。40時間に3,000円を掛けた12万円が引かれ、報酬は36万円です。月額48万円の契約という認識のまま12万円減るので、請求書を作る段階で気づくと精神的にこたえます。

同じ月額でも、何時間働いたかで実質時給は変わります。上のモデルで一覧にします。

稼働時間

報酬

実質時給

0時間

60,000円

算出不可

60時間

240,000円

4,000円

100時間

360,000円

3,600円

140時間(下限)

480,000円

3,429円

160時間(基準)

480,000円

3,000円

180時間(上限)

480,000円

2,667円

200時間

540,000円

2,700円

幅の中で最も実質時給が高いのは下限ちょうどの140時間です。そこから上限の180時間まで40時間ぶん働いても、報酬は1円も増えません。時給は3,429円から2,667円まで下がります。その差は1.29倍です。180時間を超えて200時間働くと、時給は2,700円へ少し戻ります。超過分に単価が付くからです。この契約で最も割が悪いのは、上限ちょうどまで働いた瞬間です。そこが底で、それ以上働けば少し改善します。真面目に上限まで埋めた人が一番損をする設計になっている、と言うこともできます。

数字を入れ替えても比率は変わりません。上限180を下限140で割ると1.286です。たとえば精算幅が70〜90時間の契約でも、90を70で割れば同じ1.286になります。つまり自分の契約の精算幅の上限を下限で割れば、時給が何倍動くかがすぐ出ます。幅が広い契約ほど、この数字は大きくなります。120〜180時間なら1.5倍です。契約書を見たら、まずこの割り算をしてみてください。

単価の基準時間と、精算幅の下限はズレている

もう一段細かい話をします。単価は月額を基準時間で割って決まりますが、その基準時間と精算幅の下限は一致していません。

2本の物差しがある

モデルでは基準時間160時間に対し、下限は140時間です。同じ契約書の中に、物差しが2本ある状態だと思ってください。1本目は単価を決めるための160時間、2本目は控除の起点になる140時間です。

この20時間ぶんの差が何かというと、下限ちょうどで働いた月に発注側が受け取っている余剰です。悪いことではありません。稼働の変動を吸収するための幅なので、そういう設計です。

受け取る側から見ると、意味が変わる

ただ、受け取る側から見ると意味が変わります。下限を1時間でも割れば控除が始まるのに、下限から基準時間までの20時間は自分の取り分にならない。ここを理解しないまま「月額いくらの仕事」と考えていると、稼働の見積もりを外します。

そもそも、何が稼働時間に入るのか

  • 迷いやすい項目は全部で5つ
  • 移動と待機は稼働に含めない扱いが通例
  • 15分未満切り捨てで月4時間消える

下限に届くかどうかを左右するのに、意外と決まっていないのがこれです。契約書に「稼働時間に応じて」と書いてあっても、何を稼働時間として数えるかまで書かれていることは多くありません。

迷いやすい5つ

作業

数えるか

確認点

定例の打ち合わせ

数える

準備と議事録の作成も含むか

チャットでの相談対応

分かれる

細切れの対応をどう積むか

資料や既存コードの読み込み

分かれる

着手前の理解も業務に含むか

常駐先への移動

数えないことが多い

指定された場所への移動の扱い

待機の時間

数えないことが多い

指示待ちで動けない時間の扱い

ここが曖昧なまま進むと、月末に自分で判断する羽目になります。控えめに付ける癖がついている人ほど、下限を割りやすいのが実際のところです。当時の私も最初はチャットの対応を数えていませんでしたが、積み上げると月に数時間あることに気づきました。

15分単位の端数は、月末にまとめて響く

精算の単位が15分なら、14分の作業は0分として扱われます。1日1回それが起きるだけで、月20日で約4時間ぶんが消えます。端数の切り捨ては、1回ずつは小さくても月単位では下限を割る原因になります。

対策は単純で、作業のたびに記録することです。あとから思い出して書くと、必ず短く見積もります。記録の粒度がそのまま報酬になる、と考えたほうが実態に合います。

精算幅の運用が、指揮命令に近づいていないか

  • 指示の中身次第で偽装請負になりうる
  • 基準は昭和61年労働省告示37号
  • 下限を理由に残業を強いられた相談も実在

精算幅の下限に届かないと控除される、という設計は、発注側にも受注側にも「なんとか下限まで稼働時間を埋めよう」という力を働かせます。この力そのものは契約の範囲内ですが、働き方そのものへの指示に変わった瞬間、話は民法ではなく労働者派遣法の領域に入ります。

何が「指揮命令」になるのか

請負・準委任と労働者派遣の違いは、昭和61年労働省告示第37号(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準)が判断の物差しです。契約書の表題が業務委託契約書でも、実態が次のいずれかに当てはまれば、労働者派遣とみなされる可能性があります(2026年9月19日確認)。

  • 業務の進め方や順序を、発注先が指示している
  • 始業・終業の時刻や休憩、残業の有無を発注先が管理している
  • 誰がその業務にあたるかを発注先が指名・変更できる
  • 業務の完成に、発注先自身が資金や責任を持っていない

精算幅の下限や基準時間そのものは、この基準に触れません。触れるのは、下限に届かせるための具体的な働き方の指示です。「今日は定時で帰るな」「もっと残業しろ」という指示は、稼働の中身そのものへの指揮命令に近づきます。稼働時間の管理にとどまりません。

実際にあった相談

公開されている相談には、精算幅140〜180時間・基準160時間の契約で、日々のタスクを終えて定時で退勤していたところ、常駐先の担当者から「非道徳的だ」と叱責され、基準時間に届いていないことを理由に契約解除まで示唆された、というものがあります。この方は元請けの会社から「残業の義務はない」と説明を受けていましたが、常駐先の担当者は稼働不足を理由に、直接、残業を求めていました。精算幅の下限は契約書の数字であって、現場からの残業要求を正当化する根拠ではありません。

発注先から日々の作業時間や退勤時刻を指示されている自覚があるなら、指揮命令にあたらないかを一度確認したほうがいいテーマです。フリーランス・トラブル110番は、厚生労働省が第二東京弁護士会に運営を委託している無料の相談窓口で、匿名でも相談できます。

稼働が止まった月・契約が終わる時、報酬と権利はどうなるか

  • 648条3項、途中分の請求は可能
  • 651条、委任はいつでも解除できる
  • 新法4条、支払いは受領日から60日以内

準委任でいちばん不安になるのがここです。自分は動けるのに、渡される業務がない月があります。契約そのものが途中で終わることもあります。

民法648条3項が答えを用意している

条文にはこうあります。

受任者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。一 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。二 委任が履行の中途で終了したとき。

むずかしい言い回しですが、途中までしかできなかった場合でも、やった分は請求できるという意味です。全部できなかったから全部ゼロ、にはなりません。

ただし契約書の条項が優先する

ここで注意が要ります。民法のこの規定は、当事者が別の合意をしていればそちらが優先します。精算幅と控除単価を定めた契約は、まさにその別の合意にあたります。

つまり「相手都合で止まったから満額もらえるはず」とは限りません。契約書に「稼働時間に応じて精算する」と書いてあれば、止まった理由が誰にあるかとは関係なく、時間で計算されます。条文を持ち出す前に、まず自分の契約書を読むのが先です。実務では、止まりそうだと分かった時点で伝えるほうが早く解決します。「今月このままだと下限に届きません」と月の中頃に言えるかどうかで、結果がまるで変わります。報酬の話は、請求のときではなく稼働の途中にするものだと考えてください。

いつでも解除できる、が原則になっている

もうひとつ、準委任には請負と大きく違う点があります。民法651条1項です。

委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。

この原則、実務では何を意味するのか

準委任は、どちらの側からもいつでも終わらせられるのが原則です。これは受ける側にとって、来月も同じ報酬がある保証はどこにもない、という意味になります。継続前提で生活設計をしていると、ここでつまずきます。もちろん実務では契約期間や更新の条項を置くのが普通で、いきなり切られる例は多くありません。ただ原則がこうなっていることは知っておいて損はありません。

同じ651条の2項に、相手方に不利な時期に解除したときは損害を賠償しなければならない、という定めがあります。やむを得ない事由があったときは除かれます。完全に無防備というわけではない、ということです。ただし賠償を請求する側にとっては、不利な時期だったことも損害額も自分で立証する必要があるので、簡単な話ではありません。期待するより、更新の意思を早めに確認しておくほうが現実的です。

フリーランス新法が、報酬の額と支払期日の明示を義務にした

民法とは別に、2024年11月に施行された法律があります。正式には特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律で、フリーランス新法と呼ばれています。個人で受託している人を対象にした法律なので、準委任で働いているなら直接関わってきます。

報酬の額と支払期日は書面化が要る

同法3条は、業務委託をした場合は直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日などを書面または電磁的方法で明示しなければならない、と定めています。口約束だけで始めてよい契約ではなくなりました。精算幅や控除単価は「報酬の額」の決まり方そのものなので、ここに含まれると考えるのが自然です。条件が曖昧なまま始まりそうなときは、この条文を根拠に書面化を頼めます。角を立てずに言うなら「あとで揉めないように、条件を一度書き出しておきたい」で十分伝わります。

同法4条1項は、報酬の支払期日について、給付を受領した日から起算して60日の期間内で、かつできる限り短い期間内に定めなければならない、としています。検査をするかどうかは関係ありません。さらに2項で、支払期日が定められなかったときは受領した日が、60日を超えて定められたときは受領日から60日を経過する日が、それぞれ支払期日とみなされます。末締め翌々月末払いのような条件は、この規定に触れる可能性があります。準委任の報酬は稼働の後に確定するので、入金までの期間が長いほど手元の資金が薄くなります。稼働が読めない契約では、この期間の短さが生きてきます。条件を見るときは、金額と一緒に支払期日も見てください。

請負や1社集中と比べると、この契約はどこで報われないのか

  • 請負は完成まで入金なし
  • 連休月は1日の必要時間が伸びる
  • 精算幅の契約は1つまでが安全

ここまで読んで、請負のほうがよかったのではと思うかもしれません。また、この設計がいちばん響くのは稼働が予定どおりにいかない月です。順に比べておきます。

請負は、完成しないと1円も入らない

準委任

請負

報酬の発生

稼働した時間や割合に応じて

仕事を完成させたとき

入金のタイミング

稼働した月ごとに請求できる

完成して検収が終わるまで請求できない

依頼が少ない月

稼働が伸びず報酬も減る

受注した案件の代金は発生する

完成できなかったとき

やった割合で請求できる(648条3項)

可分な部分で注文者が利益を受ける範囲(634条)

途中で切られたとき

いつでも解除が原則(651条)

注文者は損害を賠償して解除できる(641条)

成果物の責任

負わない。善管注意義務は負う

負う

どちらが有利かは一概に言えません。請負は納品すれば代金が立つかわりに、完成の責任を負います。準委任は完成の責任を負わないかわりに、報酬が自分の稼働量に縛られます。責任と収入の安定を交換している、と考えると整理しやすくなります。

民法632条は、請負を「仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約と定めています。結果に対して払われるので、完成が遅れれば、その分だけ入金も遅れます。やっかいなのは、遅れの原因が自分にあるとは限らないことです。戻しが1ヶ月後に来る、修正が何度も往復する、確認待ちで止まる。どれもこちらからは動かせません。それでも完成していない以上、請求の根拠が立ちません。制作の現場では、修正の往復が終わらずに半年納品できないまま、代金も回収できていない、という声を見かけます。半年分の生活費を先に出しているのと同じことで、個人でやっているところには遠すぎます。

防ぐには、契約のときに分けておくしかない

このリスクを下げる方法は、着手金と中間金を先に決めておくことです。着手時に何割、デザイン確定時に何割、公開時に残り、という分け方が一般的です。分割の話は契約のときにしかできないということです。遅れ始めてから「途中までの分を請求させてほしい」と言うのは、相手にとっても根拠のない要求になります。金額と同じくらい、いつ入るかを最初に決めてください。なお、分割を決めていても、各回の支払期日はフリーランス新法4条の60日ルールの対象になります。分けた上で支払いが先送りされては意味がないので、そこまで含めて書面にしておくのが安全です。

連休のある月は、1日あたりの必要時間が上がる

長期休暇のある月は営業日そのものが減ります。相手方の都合で作業が止まる月もあります。準委任は仕事の完成を約束していないので、渡される業務が少なければ稼働は伸びません。そして稼働が伸びなければ、下限を割って控除されます。「今月は依頼が少なかった」は、そのまま「今月は報酬が少ない」になります。下限140時間に届くために、1日あたり何時間必要かを営業日数ごとに出しました。

その月の営業日

下限に届く1日

上限なら

22日(通常の月)

6.4時間

8.2時間

20日

7.0時間

9.0時間

19日(3日休む月)

7.4時間

9.5時間

17日(5日休む月)

8.2時間

10.6時間

同じ下限に届くのに、連休のある月は1日あたり2時間近く多く働く必要があります。22日の月なら6.4時間で足りたものが、17日の月では8.2時間になります。夏季休暇や年末年始の月に急に苦しくなるのは、依頼が減るからだけではありません。分母そのものが減っているからです。厄介なのは、休んだ本人の感覚では「少し休んだだけ」で済んでしまうところです。3日休めば、残りの19日で毎日1時間ずつ多く働かないと同じ場所に着きません。休みの代金は、その月のどこかで必ず払っています。

1社に寄せるほど、この揺れが直撃する

取引先が1社だけだと、その1社の繁閑がそのまま自分の月収になります。準委任の履行割合型は特にそうで、相手が忙しくない月は自分も稼げません。複数社と契約していれば、片方が薄い月にもう片方で埋められます。ただし精算幅のある契約を2つ持つと、両方の下限を追いかけることになって身動きが取れなくなります。精算幅のある契約は1つまでにして、残りは成果物ベースで持つ。当時はそこに行き着きました。なお稼働時間そのものの決まり方については、こちらの記事で別途扱っています。

契約前後に確認・交渉すること

  • 勘違いは3つ、報酬は稼働連動
  • 契約前に見る項目は7つ
  • 更新時が交渉の通りやすい機会

ここまでの内容を、実務で使える形にまとめ直します。私が実際に取り違えていたことと、確認しておけばよかったことです。

よくある勘違い3つ

勘違い

正解

稼働少なくても同額

下限割れは控除

責任軽い分安定

報酬は稼働連動

相手都合でも満額

契約書通り時間精算

3つに共通しているのは、「準委任」という言葉に安定のイメージを重ねてしまっている点です。準委任が保証しているのは、完成の責任を負わないことだけで、収入の安定ではありません。

契約前に確認する7つ

契約書と発注書を見るとき、次の7つを探してください。当時の契約で私が確認したのも、この7点でした。

確認すること

起きること

履行割合型か成果完成型か

報酬の発生条件そのものを取り違える

報酬の最低保証があるか

稼働が伸びない月に、歯止めなく控除される

精算幅の下限と上限

何時間から控除が始まるか分からない

控除単価と超過単価

同額とは限らない。控除だけ高い契約もありうる

単価の基準時間

下限との差が、自分の取り分にならない時間になる

精算の単位

15分単位か1時間単位かで、端数の扱いが変わる

契約期間と更新の条件

いつまで続くのかが読めず、生活設計ができない

最低保証の条項は、個別契約や発注書に書かれることが多い項目です。基本契約に書かれていることは少ないです。基本契約に金額の定めがなくても不備ではありませんが、発注書にも無ければ、下限は存在しません。

契約したあとにできること

すでに結んでしまった契約でも、打てる手はあります。月末に集計して初めて分かる状態だと、打つ手がありません。週の終わりに累計時間を確認して、月の下限に対して何割まで来ているかを見ておきます。第2週の終わりで半分に届いていなければ、その月は危ないと判断できます。

早く言う、更新時に交渉する

届かない見込みが立ったら、早く言うことです。言いにくい話ですが、早いほど打てる手は多くなります。前倒しできる作業がないか、着手を早められる案件がないかを相談できるのは、月の前半だけです。

更新のタイミングは、条件を見直せる数少ない機会です。精算幅の下限を下げてもらう、最低保証を入れてもらう、基準時間を下限に合わせてもらう。どれも言ってみる価値があります。実績が出ている時期に言うのが、いちばん通りやすいです。

よくある質問

準委任契約は報酬なしなのですか?

民法648条1項は「特約がなければ報酬を請求できない」と定めているので、原則としては無償です。ただし実務では報酬の定めを置くのが通常で、その特約があれば当然に請求できます。報酬は契約で決めるものだという意味です。無報酬という意味ではありません。

精算幅は何のためにあるのですか?

発注側から見れば、月ごとの稼働の増減をいちいち精算せずに済ませるための仕組みです。受注側から見ても、多少働きすぎた月に減らされない安心はあります。双方にとっての簡便さと引き換えに、幅の中では時間が報酬に反映されなくなります。

精算幅の時間管理は違法ですか?

精算幅そのものは民法648条の報酬の特約なので、違法ではありません。違法に近づくのは、下限に届かせるために発注先が具体的な作業指示や勤務時間の管理を行った場合です。判断の基準は昭和61年労働省告示第37号にあり、業務の進め方や始業・終業の管理を発注先が握っているかで見ます。実際の指示の中身で判断されます。契約書の言葉だけでは判断できません。

「上下割」と「中間割」、どちらが得ですか?

呼び名だけでは判断できません。解説記事によって同じ呼び名が違う計算式を指していることがあるので、自分の契約書に書かれた数式そのものを確認するのが確実です。確認すべきは、単価をどの時間から計算するか、超過と控除で単価が同じか別かの2点です。

下限を割りそうなとき、どうすればよいですか?

月の途中で気づけるように、稼働を週次で見ておくことです。月末に集計して初めて分かる状態だと、打つ手がありません。相手方に依頼の前倒しを相談できる関係なら、早い段階で伝えるほうが双方にとって楽です。

相手の都合で作業が止まった月も、報酬は減るのですか?

契約書の定め方によります。稼働時間に応じて精算すると書かれていれば、止まった理由にかかわらず時間で計算されます。民法648条3項は「既にした履行の割合に応じて」請求できると定めていますが、当事者が別の合意をしていればそちらが優先します。

最低保証は交渉して入れてもらえるものですか?

入る例はあります。ただし発注側にとっては稼働がなくても支払う約束になるので、簡単ではありません。最低保証そのものが通らないときは、精算幅の下限を下げる、基準時間を下限に合わせる、といった代案のほうが受け入れられやすい傾向があります。

準委任の履行割合型は固定給ではなく、下限は指揮命令の境界にもなる

準委任の履行割合型は固定給ではありません。月額が動かないのは精算幅の中にいるあいだだけで、下限を割れば控除され、上限まで働いても増えません。民法648条は「特約がなければ報酬を請求できない」と定めているだけで、月額固定という性質を準委任に与えてはいません。

下限には、金額と指揮命令の両方がかかっている

精算幅の中では、下限ちょうどが最も実質時給が高く、上限ちょうどが最も低くなります。その差は上限を下限で割った比そのままで、140〜180時間なら1.29倍です。計算の呼び名は「上下割」「中間割」とさまざまですが、名前ではなく契約書の数式そのものが答えです。

そして、下限に届かせようとする力は、金額だけでは終わりません。発注先が具体的な作業指示や勤務時間の管理に踏み込めば、精算幅の運用は指揮命令に近づきます。判断の基準は昭和61年労働省告示第37号にあり、実際の指示の中身で見られます。準委任は民法651条によっていつでも解除できるのが原則で、相手の都合で止まった月の扱いも契約書の条項が民法に優先します。書かれていないことは起きません。逆に、書かれていることは必ず起きます。契約前なら7つの確認項目を、契約後なら週次の稼働確認と更新時の交渉を、そして日々の指示が働き方そのものに及んでいないかを。ここまで見ておけば、月末に請求書を作りながら青くなる回数も、現場からの一方的な要求に応じてしまう回数も、確実に減ります。

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