
アーム代表の伊藤です。
受発注システムの横に、表計算が開いている。現場に聞くと「こっちのほうが早いので」。800万円の稟議を通した本人は、作り直しを言い出せば自分の判断ミスを認めることになると思っています。
間違っていたのは判断ではなく順番です。現場に使われない業務システムの多くは、作り直さなくても直せます。先に見るのは、どの層が壊れているかです。この800万円も、実は無駄になっていません。
業務システムが使われない原因は4つの層。作り直しが要るのはデータ層だけ
- 迂回路は現場の怠慢ではない
- 層は画面・業務・データ・運用の4つ
- 画面と運用は今のシステムのまま直せる
表計算が横に開いている光景は、現場の怠慢でも、システムの全否定でもありません。どこか1つの層が壊れていて、現場がそこを自力で迂回している証拠です。迂回路ができるほど、現場は真面目です。
層 | 作り直し |
|---|---|
画面 | 不要 |
業務 | 定義を変えれば不要 |
データ | △ 多くは必要 |
運用 | 不要 |
「使いにくい」「定着しない」という言葉は、原因を1つに見せます。実際には層が違えば、直す人も費用も違います。
数十万円からで、対象フローを絞れば小さく始められる
ラベルは「ブックマーク」なのに、アイコンはハート。現場は「お気に入り」だと思って押し、あとで見つからないと言っていました。これが画面の層です。
直すのはUIデザイナーか、既存のシステムに手を入れられる開発者。システムはそのままで、画面の手術だけで直ります。
症状 | 直し方 |
|---|---|
目的の項目を探す | 配置と名前を直す |
ボタンの意味で止まる | 印と名前を揃える |
隣のボタンを押し間違える | 見た目を分ける |
画面を直しても、仕事の順序と合わなければ表計算に戻る
受注入力の画面と、現場の仕事の順序が逆だった案件があります。画面だけ直しても、この順序が合わなければ表計算に戻ります。
画面の順序 | 現場の順序 |
|---|---|
1. 顧客を選ぶ | 1. 電話で数量を聞く |
2. 商品を選ぶ | 2. 商品を確認する |
3. 数量を入れる | 3. 顧客を特定する |
直すのは現場責任者と設計者で、ベンダーだけでは決められません。業務の棚卸しに数週間、画面の修正はその後です。作り直しではありません。
画面の色を変えても直らない唯一の層
出荷日の項目が任意入力で、半分が空欄。集計のたびに手作業で埋めていた。これはデータの層で、画面をいくら整えても直りません。
症状 | 正体 |
|---|---|
項目の半分が空欄 | 入力の設計 |
二重入力が消えない | データの持ち方 |
集計が手作業 | 項目が無い |
直せるのは部分的で、多くは追加開発か作り直しになり、4つの層でここだけ費用が大きくなります。直すのは開発ベンダーで、設計からやり直します。
詳しい人が辞めた瞬間に壊れる
使い方に詳しい1人だけがシステムを支えている状態は、その人が異動・退職するまで問題に見えません。費用はほぼ人件費で、システムに触れずに直ります。直すのは自社で、必要なら外部が設計を手伝います。
症状 | 直し方 |
|---|---|
使い方が人によって違う | 運用ルールを決める |
引き継ぎで使われなくなった | マニュアルを整える |
1人しか分からない | 手順を洗い出す |
優先度は「その人がいなくなったら何が止まるか」で決めてください。
1回の迷いはたった30秒でも、20人分が毎日重なれば、1日で8時間が消えます。
「使いにくい」を感想で聞くと、直す場所を見誤る
- 止まった場所と秒数を10件集める
- 探す・迷うは画面層のサイン
- 空欄項目の放置はデータ層の兆候
現場から「使いにくい」と言われたとき、感想として受け取ると動けません。聞くのは「何が使いにくいか」ではなく、「昨日、このシステムで何秒止まったか。どこで」です。止まった場所と理由を10件集めれば、どの層に集中しているかが分かります。
現場の言葉 | 層 |
|---|---|
「どこにあるか分からない」 | 画面 |
「順番が仕事と違う」 | 業務 |
「集計は表計算でやる」 | データ |
「Aさんしか分からない」 | 運用 |
現場の声を症状に変える手順は、こちらで詳しく書いています。
1,000万円か300万円かより先に見る、現場の損失時間
- 30秒×50回×20人で1日8時間の損失
- 年間240日で約1,900時間が消える
- 相見積もりの数は判断の質を上げない
「作り直すと1,000万円、追加開発なら300万円」という比べ方は、判断を誤らせます。比べるのは、現場が毎日失っている時間です。
迷いの積み上げ | 失う時間 |
|---|---|
1回の操作で | 30秒 |
1日50回×20人で | 約8時間 |
年240日で | 約1,900時間 |
1人分の労働時間が、毎日、迷いだけで消えています。この時間を画面の手術で取り戻せるなら、数十万円でも回収は早い。取り戻せないなら、追加開発に300万円かけても同じ時間が消え続けます。
公開されている相談の中に、30社に相見積もりを取って決めた予約システムが、納期6ヶ月の予定が18ヶ月に、予算800万円が2,000万円になったという投稿があります。相見積もりの数は、判断の質を上げません。層の見立てを持たずに比べると、金額だけが並び、金額だけで決めることになります。
ベンダーの見積もりを差し戻す前に聞く、3つの質問
- 質問は層・秒数・要否の3つ
- 答えられない見積もりは症状未確認
- 3つ答えなければ第三者の診断へ
「追加開発で対応します」という見積もりが来たら、金額を見る前に3つ聞いてください。画面の層の不満に、データの層の見積もりが来ていることがあります。
聞く質問 | 要注意の答え |
|---|---|
4つの層のどこを直しますか | 層の話が出ない |
現場の何秒が何秒になりますか | 答えられない |
しない場合、何が起きますか | やらない選択肢が無い |
秒数を答えられるベンダーは、現場を観察しています。やらない選択肢を出せる相手は、信頼できます。3つとも返ってこないなら、通す前に第三者の診断を挟んでください。
アームの業務システムUI/UXデザインでは、UIの課題診断と改善プロトタイプを無料でお受けしています。主要なフローを1本選び、症状を集め、画面の層で直せる範囲を1〜2週間で叩き台にします。運用の層だけが原因なら、システムに手を入れる必要はないとお伝えして終わります。
作り直したほうが安くつく、4つの条件
- データ層が壊れていれば作り直しが安い
- 二重入力や手作業集計が目印
- 業務と画面の設計を先に終える
作り直しを勧めない記事ではありません。データの層が壊れているときは、作り直すほうが安くつきます。
条件 | 目印 |
|---|---|
項目が構造的に入力できない | 外で管理表が育つ |
データの持ち方で二重入力 | 入力の手間が消えない |
集計や連携に手作業が入る | 月に何日も消える |
ベンダーが構造に触れない | 費用が作り直しと同じ |
当てはまるなら、作り直しの見積もりを取る前に、業務の層と画面の層の設計を先に終えてください。データだけ作り直して画面と業務の順序がまた合わなければ、2年後に同じ相談になります。作り直しが失敗する典型は、こちらにも通じます。
よくある質問
診断だけ頼むことはできますか?
できます。主要フローの課題整理と改善の叩き台までを最短1週間で行います。診断の結果、システムに手を入れる必要がないと分かることもあります。
詳しい担当者が異動・退職する予定です。何を優先すべきですか?
運用の層のマニュアル化を、他の層より先に進めてください。今その人にしか分からない手順を洗い出すところから始めると、引き継ぎの空白を防げます。
導入した業務システムが現場に使われない原因は、4つの層のうちデータ層だけが作り直し対象
画面と運用の層は作り直さずに直せ、業務の層は定義を変えてから画面を合わせ、作り直しが要るのはデータの層だけです。現場の声は「どこで何秒止まったか」で集め、見積もりには層・秒数・要否の3つを聞いてから答えてください。判断は、現場が失っている時間で行います。
隣の表計算が閉じていた日に
画面の順序を直して数週間。ふと現場を通ると、システムの横に開いていた表計算が閉じていた。誰も宣言せず、ただ使わなくなっていた。作り直しの稟議も、判断ミスの謝罪も要らなかった。
800万円は無駄になっていません。直す順番が違っただけです。まずは、昨日どこで何秒止まったかを、10件書き出すところから始めてください。





