
アーム代表の伊藤です。
SaaSのUIデザインの外注は、UI診断・個別画面の改善・デザインシステム構築・継続改善の4段階で頼む範囲を決めます。迷ったら小さなUI診断からが安全です。
ただし、範囲を決めるだけでは終わりません。外注した設計が自社の判断基準として残らなければ、契約が終わるたびに同じ相談をゼロからやり直す依存になります。
この記事では、頼む範囲の決め方のあとに、外注先を見極める視点と、外注しても自社に残す引き継ぎの条件まで整理します。
頼む範囲は4段階。迷ったらUI診断から
- 段階はUI診断・個別画面・システム・継続
- 全面リニューアルを前提にしない
- 診断で直す画面が数枚に絞れる例も
依頼先を探す前に、どの範囲を頼むのかを決めます。SaaSのUIデザインの外注は、大きく4つの段階に分けられます。
スコープ | 内容 | 向いている状況 |
|---|---|---|
UI診断 | 現状の画面と利用状況を分析し、課題と優先順位を出す | 何が問題かをまだ言語化できていない |
個別画面の改善 | 解約や問い合わせに直結する画面から順に直す | 課題の当たりがついている |
デザインシステム構築 | 色・部品・文言のルールを整え、画面をまたぐ基準を作る | 画面ごとに判断がばらついている |
継続改善 | リリース後も数字を見ながら改善を回し続ける | 社内に専任デザイナーがいない |
迷ったら、診断から頼むのが安全です。全面リニューアルを前提にしないこと。診断の結果、直すべき画面は数枚だった、というのはよくある話です。小さく頼んで、相手の仕事の質と自社との相性を確かめてから範囲を広げる。この順番を守れば、外注の失敗はまず致命傷になりません。
外注が「終わらない依存」になるのは、判断基準が自社に残らないとき
- 契約後も同じ相談を繰り返すのは依存の兆候
- 納品物ではなく判断基準を確認する
- 依存か資産かは契約前に分かる
SaaSのUIデザインを外注して起きる失敗のうち、いちばん静かに進むのがこれです。画面は納品されるのに、次の画面を作るときも結局その外注先に聞くことになる状態です。デザインが完成しても、なぜその配置なのか、なぜこの色を使うのかという判断基準が、自社の中に残っていません。
「デザインは納品されたのに、次の画面は結局その会社に聞くことになる」
これは特別な事故ではありません。デザインシステムや情報設計の型を外注するとき、成果物として渡されるのは多くの場合Figmaのファイルだけです。ファイルの裏にある判断の理由が言葉になっていなければ、社内のメンバーは新しい画面を作るたびに、同じ相手に確認するしかなくなります。
これ自体が悪いわけではありません。継続的なパートナーとして付き合う前提なら、むしろ合理的な選択です。問題は、依存しているつもりがないまま、実質的に依存している状態に気づかないことです。
同じ問い合わせに何度も答えているなら、それはUIの問題
依存の兆候は、サポート対応の中にも表れます。同じ操作に関する問い合わせが繰り返されているなら、それは接客の問題ではなくUIの問題です。1件あたりの対応に20分かかるとして、月10件なら200分、約3時間20分がサポートの本来業務から削れている計算になります(対応時間20分・月10件という前提を置いた試算)。この時間は、外注の契約が続く限り毎月消えていきます。
「判断基準」を資産として引き継げるかを、契約前に確認する
依頼先を選ぶ段階で確認しておきたいのは、成果物にFigmaのデザインデータだけでなく、判断基準そのものが言語化された形で含まれるかどうかです。色・余白・コンポーネントの使い分けを「なぜそう決めたか」まで記録として残す依頼先か、画面の見た目だけを納品する依頼先かで、外注が終わったあとの自由度がまったく変わります。
費用の内訳を見るときの視点は、こちらのコラムでも扱っている「納品物に何が含まれるか」と同じです。値段の前に、まず納品物の中身を見てください。
デザインシステムは「作ってもらう」で終わらせると、引き継げない
- 要るのはファイルより理由の記録
- 更新する人を契約終了前に決める
- 引き継ぎ計画は着手前に合意する
デザインシステムの構築を外注すると、色・部品・文言のルールが一式で整います。ここでよくあるつまずきは、「作ってもらったもの」のまま止まり、「自社で運用できるもの」に変わっていないことです。
引き継ぎに要るのは、ファイルではなく「なぜこの色・この余白か」の記録
デザインシステムは、色や部品の一覧表があれば運用できるわけではありません。新しい画面を作るたびに判断が必要になり、そのたびに「なぜこの余白なのか」「この場合はどの部品を使うべきか」を誰かが決める必要があります。その判断の理由が記録されていなければ、担当者が変わるたびにルールが少しずつ崩れていきます。実際に部品ごとに判断がばらつき始める崩れ方は、こちらのコラムでも扱っています。
契約終了後に、誰がデザインシステムを更新するのかを先に決める
デザインシステムの構築を発注する時点で、公開後の運用を誰が担うのかを決めておいてください。社内のメンバーが更新を引き継ぐなら、判断基準の記録に加えて、更新の手順そのものを渡してもらう必要があります。継続的に外注先へ運用を依頼するなら、それは前の章の「継続改善」の段階として、契約に含めて設計するべきものです。どちらにするかを決めないまま契約を終えるのが、いちばん高くつく選び方です。
SaaSのUIデザインを外注するタイミングの見分け方
- 判断軸は言語化の型と基準の要否
- 見た目でなく解約率や工数への投資
- 画面ごとの判断バラつきは基準不在のサイン
社内にデザインを言語化する型がなく、画面をまたぐ判断基準が必要になったときが、外注の頼みどきです。
外注するかどうかを分ける2つの軸
SaaSのUIデザインの外注とは、プロダクトの画面設計と改善を、社外のデザイン会社や個人のデザインスタジオに委ねることです。
判断の軸は2つです。自社にデザインを言語化する型があるか。そして、画面をまたぐ判断基準が必要になっているか。この2つで決まります。
型が無いまま画面を増やすと、廊下がつながらない家になる
「なぜこのボタンを目立たせるのか」「なぜこの並び順なのか」を言葉で説明できる型が社内にあるなら、外注を急ぐ必要はありません。
逆に、画面ごとにボタンの色や文言の判断がばらつき始めているなら、それは担当者のセンスの問題ではなく、基準の不在です。基準がないまま画面を増やすのは、測量をせずに増築を重ねる家に似ています。一部屋ずつは成立していても、廊下がつながりません。
外注は「見た目」でなく解約率を動かす投資として見る
もうひとつ大事なのは、UIデザインの外注を「見た目の外注」と捉えないことです。SaaSのUIは、解約率、オンボーディングの完了率、商談でのデモの通りやすさ、サポート工数と、事業の数字に直結しています。
外注は制作費ではなく、これらの数字を動かすための投資として判断するのが正確です。
商談で画面を開くたび、気まずい顔をされていないか
投資かどうかを判断するときは、もう一つ確認したいシグナルがあります。商談やデモでプロダクトの画面を開くたびに、営業やカスタマーサクセスの同僚に気まずい顔をされていないかです。画面の見た目は、開発チームだけの問題では終わりません。社内の他部署からの評価にも直結します。
SaaS UIデザインの外注先を見極める3つの視点
- 視点は実績・データ確認・体制の3つ
- 実例はハートアイコンとブックマークの不一致
- 課題を聞いた本人が設計するか確認
スコープが決まったら、次は依頼先です。SaaSのUIデザインを依頼できる会社やデザイナーは増えましたが、見るべきポイントは3つに絞れます。
管理画面・業務システムの改善実績があるか
まず、SaaSの管理画面や業務システムを「改善」した実績があるかを見ます。注意したいのは、グラフィックやLPの実績と混同しないことです。求められる筋肉が違います。
広告やホームページ | 3秒で印象を残す仕事 |
|---|---|
SaaSのUI | 毎日8時間使われても疲れない道具を作る仕事 |
実績を見るときは、完成画面の美しさではなく、何がどうズレていて、どう直したかを語れるかを確認してください。
たとえばアームが管理画面の改善で実際に直したのは、ラベルは「ブックマーク」なのにアイコンはハートという名前と印の不一致や、条件検索とリセットが同じ見た目で隣に並ぶ配置でした。
実例の詳細は管理画面のUI改善はどこから始めるかで解説しています。ズレを言語化して直せる相手か。それが実績の見極めどころです。
利用データや問い合わせログを見に来るか
次に、提案の前に利用データや解約理由、サポートへの問い合わせログを見せてほしいと言ってくるかどうかです。画面だけを見て「こう直しましょう」と即答するデザイナーは、正直なところ危険です。
SaaSのUIの課題は画面の中ではなく、ユーザーの操作のつまずきと問い合わせの中に落ちています。検査データを見ずに処方する医者に、体は任せられません。
課題を聞いた人が、そのまま設計するか
最後に体制です。営業やディレクターが要件を聞き、別のデザイナーが作る体制では、伝言のたびに課題のニュアンスが削れていきます。SaaSのUIは業務理解の解像度がそのまま品質になる領域です。
課題を直接聞いた人間が設計まで担うかを必ず確認してください。会社の規模より、この一点のほうが仕上がりを左右します。
SaaSに限らず外注先全般に使える選び方の基準は、こちらのコラムにまとめています。
SaaS UIデザインの外注費用は、画面数でなく難易度で決まる
- 費用は画面数でなく難易度と競合で決まる
- 全面リニューアルの見積もりは不要
- 着手前にどの数字を狙うか合意する
費用は「画面数×単価」のような作業量では決まりません。解きたい課題の難しさと、競合の強さで決まります。単純な画面の整理と、複雑な業務フローの設計し直しでは、同じ画面数でも難易度がまるで違います。
また、競合が強い市場ではUIそのものが「選ばれる理由」になるため、設計に求められる深さが変わります。
全面リニューアルの見積もりは、最初から取らなくていい
だからこそ、最初から全面リニューアルの見積もりを取る必要はありません。診断や個別画面の改善から始めて、解約率やサポート工数のどの数字を動かしにいくのかを合意し、回収の見通しを確かめながら範囲を広げるのが健全です。
効果を事前に保証できる会社は存在しませんが、どの数字を狙うかの合意は着手前に必ずできます。その合意をしない見積もりは、金額の大小にかかわらず高い買い物です。
アームでもUI診断からのご相談を受けています。外注すべきか迷っている段階でも、無料相談で現状を整理するところから始められます。
SaaS UIデザインの外注でよくある4つの失敗
判断まで丸投げすると、現場とズレる
外注はデザインの実務を委ねることであって、プロダクトの判断を委ねることではありません。誰のどの業務を優先するかを決められるのは、事業側だけです。丸投げされたデザイナーは仮説で判断を埋めるしかなく、仕上がりは必ず現場とズレます。
「今風に」だけでは、つまずきは残ったまま
「今風のデザインにしてほしい」という発注は、たいてい数字が動きません。色とレイアウトが変わっても、情報の構造とラベルの言葉が同じなら、ユーザーのつまずきはそのまま残るからです。発注書に書くべきは「きれいに」ではなく、どの操作のつまずきを消したいかです。
スコープを決めずに走り出す
範囲を決めずに始めた外注は、途中から要望が積み上がり、費用も納期も膨らみます。次の4段階のどこを頼むのかを、契約前に一枚で合意しておくだけで、この失敗の大半は防げます。
- 診断
- 個別画面の改善
- デザインシステムの構築
- 継続改善
引き継ぎを決めずに契約を終える
プロジェクトが一区切りついた時点で、次に誰が判断基準を更新するのかを決めないまま契約を終えると、社内には成果物だけが残ります。半年後、誰も理由を説明できない画面が増えていくのはこのパターンです。契約の終盤ではなく、発注の時点で引き継ぎの形を決めておいてください。
SaaS UIデザインでアームが見るのは、解約率とオンボーディング完了率
- 数字を因数分解してからUIに翻訳
- 使われて数字が動くまでを設計と呼ぶ
- 課題を聞いた本人がそのまま設計担当
事業を因数分解してから、UIに翻訳する
アームは、画面のスケッチから始めません。解約率、オンボーディング完了率、サポート工数といった事業の数字をまず因数分解し、どの数字のどの要因がUIに起因しているのかを特定してから、画面の設計に翻訳します。得意なのは装飾ではなく、事業の数字をUIに翻訳するこの部分です。
使われて、数字が動くまでを設計と呼ぶ
納品した画面がどれだけ整っていても、現場で使われず、数字が動かなければ設計とは呼べないと考えています。だからリリース後の利用状況まで見て直します。ディレクターを挟まない一気通貫の体制で、課題を聞いた本人が設計まで担当します。
サービスの詳細はSaaS・アプリのUIデザインのサービス紹介にまとめています。
よくある質問
SaaSのUIデザインの外注費用の目安は?
費用は作業量ではなく、課題の難しさと競合の強さで決まるため、一律の相場は示せません。目安が必要な段階なら、まず小さなUI診断で見積もりを取り、課題の全体像と優先順位を掴むのが確実です。案件タイプ別の目安はUI/UXデザインの費用相場にまとめています。
どこまで自社でやり、どこから外注すべきですか?
日々の画面追加や文言調整は自社で、画面をまたぐ基準づくり(デザインシステムや情報設計の型)は外注で、という分担が機能しやすい形です。基準さえ整えば、社内だけで回せる範囲は大きく広がります。
デザイナー個人と会社、どちらに依頼すべきですか?
規模で選ぶ必要はありません。見るべきは、管理画面・業務システムの改善実績と、課題を聞いた人が設計まで担う体制かどうかです。この2つを満たしていれば、個人でも会社でも成果は出ます。
UI改善の効果は保証してもらえますか?
解約率などの数字にはUI以外の要因も絡むため、誠実な依頼先ほど効果の保証はしません。代わりに、どの数字を動かしにいくかを着手前に合意できる相手かを確認してください。
開発中のプロダクトでも依頼できますか?
できます。むしろ画面が増えきる前に基準を整えるほうが、直す量が少なくて済みます。リリース後に全面改修するより、開発中に型を入れるほうが投資としては軽くなります。
デザインシステムの更新は、いつまで外注先に頼めますか?
契約次第です。期限を決めずに「なんとなく続く」状態がいちばん危険なので、構築の依頼時点で、更新を継続的に外注するのか、社内に引き継ぐのかを決めておいてください。
外注先を変えるとき、前の会社の資産はどこまで引き継げますか?
Figmaのデータ自体は引き継げても、判断の理由が記録されていなければ、新しい依頼先はゼロから推測することになります。契約時に、判断基準の記録を納品物に含めてもらえるかを確認してください。
創業者やPdM自身がUIを細かく見ていれば、外注しなくてもいいですか?
見ていること自体はよいことですが、そこに使っている時間を測ってみてください。ボタンの配置や余白の調整に週に数時間を使っているなら、その時間は本来、事業の意思決定や資金調達、採用に使うべき時間です。UIの細部を手放すのは手を抜くことではなく、自分にしかできない仕事に時間を戻すことです。
商談で画面を見せるのが気まずいのですが、これはUIの問題ですか?
多くの場合そうです。営業やカスタマーサクセスから画面の見た目について指摘を受けたことがあるなら、それは感覚のズレではなく、UIが実際に使いにくいサインであることが少なくありません。
SaaS UIデザインの外注は、範囲より先に「何が自社に残るか」で決める
SaaSのUIデザインの外注は、スコープを診断・個別画面の改善・デザインシステム・継続改善の4段階で考え、全面リニューアルを前提にせず、小さく始めて広げてください。
外注先は、管理画面の改善実績、データを見る姿勢、伝言ゲームのない体制の3点で見極められます。そのうえで、契約が終わったときに自社に何が残るかを、発注の時点で決めてください。判断基準とデザインシステムの更新方法が資産として残らなければ、外注は終わらない依存になります。見積もりを取るときの問いは「いくらで作るか」ではなく、いくらを回収する設計かです。






