
アーム代表の伊藤です。
ユーザビリティテストは、5人で使いにくさのおよそ85%が見つかるため、15人で一度だけ調べるより5人で回して直すほうが多くの問題を潰せます(出典: Nielsen Norman Group「Why You Only Need to Test with 5 Users」(2000年))。
担当者の隣に座って操作を見せてもらうだけで、作り手に見えていなかった詰まりが表に出ます。この記事は、最初に5つの手順をそのまま見せ、人数の根拠、種類の選び方、よくある失敗の順で最短にたどれる構成にしています。
やり方は「5人・小さく・今日から」。手順は5つ
- 手順は仮説→設計→被験者→実施→分析
- 一度で終わらず直してまた回す
- 少ない予算でも問題を多数発見
完璧な調査設計を待つより、5人程度で小さく回して、すぐ直してまた試すほうが成果につながります。大人数を集めて一度きりの大規模調査をするより、5人で回して直し、また5人で回す。この小さな反復が、少ない予算で最も多くの問題を見つけます。
5人で足りる根拠は「何人でやるか」の章で解説します。やることは、次の5つをこの順に回すだけです。
- 目的と仮説を決める
- タスク(シナリオ)を設計する
- 被験者を集める
- 実施する(隣で黙って見る)
- 分析して直す
使いにくさは、解約率と問い合わせ数にそのまま出る
- 2024年BtoC-EC市場規模は26.1兆円
- 物販系EC化率9.8%、BtoBは43.1%
- 業務システムやSaaSほど見返りが大きい
使いにくさの解消は、問い合わせ・受注・解約率という数字に直結します。保存の場所が分からず離脱していた管理画面を直せば、解約の芽が一つ減ります。申し込みフォームの詰まりを一つ外せば、同じ広告費のまま問い合わせが増えます。
テストは「きれいにする」ためではなく、事業の数字を動かすために回すものだと考えています。取引そのものが画面の上で完結する割合も、年々上がっています。
EC化率43.1%、業務システムほど見返りは大きい
2024年の国内のBtoC-EC市場規模は26.1兆円、物販系分野のEC化率は9.8%、BtoB-ECのEC化率は43.1%でした(出典: 経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」(2025年8月公表))。
画面の使いやすさが、そのまま取引の成否に触れる場面が増えているということです。業務システムやSaaSのように毎日使われる画面ほど、この見返りは大きくなります(業務システムUI/UXデザイン)。
ユーザビリティテストは5人で足りるのか、その根拠
- 被験者を増やすと発見効率が下がる
- 15人1回より5人3回の方が多く潰せる
- 出典はニールセン氏2000年の調査
「たった5人で足りるのか」は、最もよく聞かれる疑問です。答えは、5人で使いにくさのおよそ85%が見つかるから、です。
これはヤコブ・ニールセン氏の調査で示された数字で、被験者を増やしても同じ問題を何度も見つけるだけで、発見の効率は急激に下がっていきます(出典: Nielsen Norman Group「Why You Only Need to Test with 5 Users」(2000年))。
だからこそ、15人で一度だけ調べるより、5人で3回に分けて、間で直しながら回すほうが多くの問題を潰せます。人数を追わず、回数で追う。これが小さく回すユーザビリティテストの核心です。
5人で見つからない問題もある
ただし5人で見つかる85%は、同じユーザー層を前提にした推定値です。実務では、5人で十分だった案件と、5人で見つけたはずの問題が本番では様子が違っていた案件の両方が起こり得ます。原典が示す例外もここにあり、ユーザー層が大きく異なる場合は層ごとに3〜4人、比較の精度が要る定量調査では20人が目安です。「5人で足りる」は万能の数字ではなく、対象ユーザーが1つの層にまとまっているときの目安だと捉えてください。
画面ごと作り直す前に、まず一人に操作してもらう
- 原因不明のまま作り直しても詰まりは残る
- まず一人に操作してもらい原因を切り分け
- 一度で終わらせず継続できるかが分かれ目
使いにくいと言われると、つい画面ごと作り直したくなります。ですが原因が分からないまま作り直しても、詰まりは形を変えて残ります。大きく動かす前に、まず一人に操作してもらって原因を切り分けてください。
一度のテストで終わらせず、直して試すを続けられる状態まで持っていけるかどうかが分かれ目です。問い合わせや申し込みが増えない原因を、感覚ではなく観察で切り分けたい方は、こちらもあわせてご覧ください。
ここからは、実際に回すときの手順です。
今日から回せる、ユーザビリティテストの5ステップ
「何を確かめたいか」を一文にする
「何を確かめたいのか」を一文にします。たとえば「新規登録の途中で離脱する原因を知りたい」「この管理画面で保存操作に迷わないか確かめたい」といった具合です。目的が曖昧なテストは、見たいものが見えないまま終わります。
あわせて「たぶんこのボタンが分かりにくい」という仮説を立てておくと、当日の観察の焦点が定まります。
「登録してください」ではなく場面で渡す
被験者にやってもらう作業を、具体的な場面として渡します。
渡し方の例 | 場面と利用状況を伝える |
|---|---|
避ける渡し方 | 場面のない指示・答えを含む指示 |
- 渡し方の例:「あなたは初めてこのサービスを使います。無料プランに申し込んでみてください」と、実際の利用状況に近い言葉で
- 避ける渡し方:「登録してください」のような場面のない指示と、「右上の登録ボタンを押してください」のような答えを含んだ指示
タスクは3〜5個ほどに絞ります。
対象に近い人を5人、社内外から集める
対象に近い人を5人ほど集めます。理想は実際の想定ユーザーですが、最初の一歩なら、対象に近い社内外の人でも構いません。フォームやサイトの入力周りを確かめたいなら、入力フォームのUIデザインで挙げた観点を、そのままタスクの確認項目にできます。
意見を聞かず、隣で黙って行動を見る
ここが本番です。意見を求めるのではなく、行動を観察します。おすすめは「思考発話法」で、頭に浮かんだことを声に出しながら操作してもらう方法です。進行役は答えを教えず、ヒントも出さず、詰まっても手を貸しません。
沈黙や、マウスが宙で迷う数秒こそが、何よりの情報になります。可能なら画面と声を録画しておきます。
「誰が・どこで」つまずいたかで整理する
観察が終わったら、詰まった場所を「どのタスクの、どの画面で、何人が」つまずいたかで整理します。全員が同じ場所で止まったなら、それは個人差ではなく設計の問題です。優先順位をつけて直し、直したものをまた5人で試す。この往復が改善の実体です。
今日揃えられる、最低限の準備物
- 操作してもらう画面(本番でも試作でも可)
- タスクを書いた紙、または進行台本
- 画面と発話を録画できる端末(PCやスマホでも可)
- 進行役1人(できれば記録役をもう1人)
完璧な準備を待たず、今日一人に頼むコツ
- 試作でも紙の印刷でもテストはできる
- 1回15分のテストでも改善点は必ず出る
- 管理画面やフォームの改善と相性が良い
身構えるほど、始められなくなります。完璧な準備を待つより、今日一人に頼むほうが早いです。試作段階の画面でも、紙に印刷した画面でも、テストはできます。まずは社内の一人にタスクを渡し、隣で黙って見るところから始めてください。
怖いのは失敗ではなく、結果の扱い方
「テストが怖い」という声の多くは、自分の設計ミスが見つかるのが嫌だからではなく、見つかった問題をどう活かせばいいか分からないという不安から来ている、という指摘があります。テストの怖さは、経験を積むほど「次に何を確かめるべきか」の精度を上げる機会に変わっていきます。
対策はシンプルです。見つかった詰まりを全部同時に直そうとしない。「誰が・どこで」つまずいたかで整理し、優先順位の高い1点だけ直して、また5人で試す。この往復を1回でも回せば、次に何を見ればいいかの感覚がつかめます。
15分のテストでも、改善点は必ず出る
アームの経験では、1回15分のテストでも、改善点が見つからなかったことはありません。この身軽さが、管理画面やフォームのような地味だが確実な改善と相性の良い理由です。
ユーザビリティテストとは。意見でなく行動を観察する手法
- ユーザビリティはニールセン氏の5要素
- 学習・効率・記憶・エラー・満足度の5つ
- 呼び方より操作の観察が共通の軸
ユーザビリティテストとは、想定ユーザーに実際の画面を操作してもらい、その様子を観察して使いにくさとその原因を見つける手法です。アンケートのように意見を聞くのではなく、行動そのものを見ます。
「どう思いますか」ではなく「やってみてください」と頼み、手が止まった場所こそが直すべき場所になります。
学習・効率・記憶・エラー・満足度、5つの物差し
そもそもユーザビリティは、感覚的な「なんとなく使いやすい」ではありません。
ヤコブ・ニールセン氏は、ユーザビリティを学習しやすさ、効率性、記憶しやすさ、エラーの少なさ、満足度という5つの要素で定義しています(出典: Nielsen Norman Group「Usability 101: Introduction to Usability」(2012年))。テストでは、この5つのどこでつまずいたのかを見ていきます。
ユーザーテスト・ヒューリスティック評価との違い
近い言葉が多いので、ここで整理します。
用語 | 見るもの | 主な目的 |
|---|---|---|
ユーザビリティテスト | 実ユーザーの操作 | 使いにくさとその原因の発見 |
ユーザーテスト | 実ユーザーの操作や反応(より広い) | 需要や受け入れられるかも含む検証 |
ユーザビリティ評価(ヒューリスティック評価) | 専門家によるレビュー | 原則に照らした机上の点検 |
厳密には呼び分けがありますが、実務では使う人の操作を観察して問題を見つけるという一点が共通の背骨です。呼び方に迷うより、まず一人に操作してもらうほうが早く前に進みます。
定性か定量か、自分の状況でユーザビリティテストの種類を選ぶ
- 軸は性質・場所・進行役の3つ
- 原因は定性、比較は定量で見る
- 小さく回すなら定性・リモート・モデレートあり
やり方は一つではありません。目的と手元の予算で、次の3つの軸から選びます。
分類の軸 | 種類 | 向いている場面 |
|---|---|---|
データの性質 | 定性/定量 | 原因なら定性/比較なら定量 |
実施の場所 | 対面/リモート | 対面は近接観察向け/リモートは遠方向け |
進行役の有無 | モデレートあり/なし | 深掘りはあり/件数重視はなし |
小さく回す段階では、定性・リモート・モデレートありの組み合わせが最も始めやすいです。理由を深掘りでき、場所を選ばず、道具もほとんど要りません。数字で優劣を比べたくなったら、定量やモデレートなしを足していきます。
ユーザビリティテストでよくある失敗、誘導・一度きり・感想集め
- 誘導した時点で問題は隠れる
- 一度きりでは改善効果を確認できない
- 感想でなく手が止まった行動を記録
誘導してしまう・一度きりで終わる・感想を集めて満足する。この3つが典型です。
「そこは右上ですよ」と言った瞬間に問題は隠れる
被験者が詰まると、進行役は助けたくなります。しかし「そこは右上ですよ」と言った瞬間、テストは自分の答え合わせに変わります。誘導した時点で、見つかるはずだった問題は隠れてしまいます。黙って見る勇気が、何よりの技術です。
一度やって満足すると、改善したか確かめられない
テストは、作って試して直す往復で価値が出ます。一度やって満足すると、直した結果が良くなったのかを確かめられません。改修の節目ごとに小さく繰り返すのが前提です。
「使いやすかったです」は、ほとんど改善に使えない
「使いやすかったです」という感想は、ほとんど改善に使えません。見るべきは言葉ではなく、どこで手が止まったかという行動です。良い評価に安心せず、詰まった数秒を記録します。
よくある質問
ユーザビリティテストは何人で行えばいいですか?
定性的に問題を見つける目的で、ユーザー群が1つの場合は、まずは5人で十分です。5人で使いにくさのおよそ85%が見つかるとされ、残りを追うより、直して再テストするほうが効率的です。
なお同じ出典では、数字で良し悪しを比べる定量調査は20人、カードソートは15人、ユーザー群が複数ある場合は群ごとに3〜4人が目安とされており、目的によって必要な人数は変わります。
費用や準備物は最低限どのくらい必要ですか?
操作してもらう画面(試作でも可)、タスクを書いた紙、録画できる端末があれば始められます。特別な機材やツールがなくても、今日から始められます。
社内の人に頼んでも意味がありますか?
本番の精度は実ユーザーに劣りますが、明らかな詰まりは社内の一人でも見つかります。まず回すことを優先し、重要な意思決定は実ユーザーで確かめます。
アンケートやアクセス解析とどう使い分けますか?
アクセス解析は「どこで離脱したか」は分かっても「なぜか」は分かりません。理由を知りたいときに、ユーザビリティテストの出番です。
オンラインと対面はどちらがいいですか?
遠方や短時間ならオンライン、細かい表情や手元まで見たいなら対面が向きます。まずは手軽なオンラインで始めても構いません。
どのくらいの頻度でやるべきですか?
一度きりにせず、設計や改修の節目ごとに小さく繰り返すのが理想です。作って試して直す、を習慣にします。
ユーザビリティテストのやり方は、5人で小さく回し今日の一人から始まる
ユーザビリティテストのやり方は、突きつめれば「使う人の操作を、隣で黙って見る」ことに尽きます。目的を決め、タスクを渡し、5人で小さく回して直す。完璧を待つより、まず今日一人に頼むところから始めてください。
その一人の止まった数秒が、売上や問い合わせ、解約率を動かす最初の手がかりになります。



