
アーム代表の伊藤です。
先日、ある管理画面の改善で、実際に使っている担当者の隣に座り、操作を見せてもらいました。こちらが「ここで登録するはず」と思っていた画面で、その方の手がぴたりと止まりました。数秒の沈黙のあと、ぽつりと「これ、どこを押せば保存されるんですか」。作り手には一度も見えていなかった詰まりが、たった一人の操作で目の前に現れた瞬間でした。
これがユーザビリティテストの効き目です。難しい調査に聞こえるかもしれませんが、やり方の本質は「使う人の操作を、隣で黙って見る」だけです。この記事では、大掛かりな調査ではなく、5人程度で今日から小さく回せるユーザビリティテストのやり方と進め方を、実務の手順に沿って解説します。
こんな方におすすめのコラムです
- ユーザビリティテストのやり方を知りたいが、何から始めればいいか分からない方
- 大掛かりな調査は予算も時間も取れないので、小さく安く試したい方
- アクセス解析の数字は見えるのに、なぜ離脱するのか原因がつかめない方
- 管理画面やフォームで「使いにくい」と言われるが、どこが問題か特定できない方
- 改善が売上や問い合わせ、解約率にどうつながるのかまで説明したい方
ユーザビリティテストとは
結論から言うと、ユーザビリティテストとは、想定ユーザーに実際の画面を操作してもらい、その様子を観察して使いにくさとその原因を見つける手法です。アンケートのように意見を聞くのではなく、行動そのものを見ます。「どう思いますか」ではなく「やってみてください」と頼み、手が止まった場所こそが直すべき場所になります。
そもそもユーザビリティは、感覚的な「なんとなく使いやすい」ではありません。ヤコブ・ニールセン氏は、ユーザビリティを学習しやすさ、効率性、記憶しやすさ、エラーの少なさ、満足度という5つの要素で定義しています(出典: Nielsen Norman Group「Usability 101: Introduction to Usability」(2012年))。テストでは、この5つのどこでつまずいたのかを見ていきます。
ユーザーテスト・ユーザビリティ評価との違い
近い言葉が多いので、最初に整理します。
用語 | 見るもの | 主な目的 |
|---|---|---|
ユーザビリティテスト | 実ユーザーの操作 | 使いにくさとその原因の発見 |
ユーザーテスト | 実ユーザーの操作や反応(より広い) | 需要や受け入れられるかも含む検証 |
ユーザビリティ評価(ヒューリスティック評価) | 専門家によるレビュー | 原則に照らした机上の点検 |
厳密には呼び分けがありますが、実務では使う人の操作を観察して問題を見つけるという一点が共通の背骨です。呼び方に迷うより、まず一人に操作してもらうほうが早く前に進みます。
ユーザビリティテストのやり方は「5人・小さく・今日から」
やり方の結論を先に置きます。完璧な調査設計を待つより、5人程度で小さく回して、すぐ直してまた試すほうが成果に効きます。大人数を集めて一度きりの大規模調査をするより、5人で回して直し、また5人で回す。この小さな反復が、少ない予算で最も多くの問題を見つけます。根拠となる数字は後述しますが、まずは全体像を次の手順で押さえてください。
ユーザビリティテストの進め方(5ステップ)
ステップ1. 目的と仮説を決める
「何を確かめたいのか」を一文にします。たとえば「新規登録の途中で離脱する原因を知りたい」「この管理画面で保存操作に迷わないか確かめたい」といった具合です。目的が曖昧なテストは、見たいものが見えないまま終わります。あわせて「たぶんこのボタンが分かりにくい」という仮説を立てておくと、当日の観察の焦点が定まります。
ステップ2. タスク(シナリオ)を設計する
被験者にやってもらう作業を、具体的な場面として渡します。「登録してください」ではなく「あなたは初めてこのサービスを使います。無料プランに申し込んでみてください」と、実際の利用状況に近い言葉にします。答えを含んだ指示(「右上の登録ボタンを押してください」など)にしないことが肝心です。タスクは3〜5個ほどに絞ります。
ステップ3. 被験者を集める
対象に近い人を5人ほど集めます。人数の根拠は次章で解説します。理想は実際の想定ユーザーですが、最初の一歩なら、対象に近い社内外の人でも構いません。フォームやサイトの入力周りを確かめたいなら、入力フォームのUIデザインで挙げた観点を、そのままタスクの確認項目にできます。
ステップ4. 実施する(隣で黙って見る)
ここが本番です。意見を求めるのではなく、行動を観察します。おすすめは「思考発話法」で、頭に浮かんだことを声に出しながら操作してもらう方法です。進行役は答えを教えず、ヒントも出さず、詰まっても手を貸しません。沈黙や、マウスが宙で迷う数秒こそが、いちばんの情報になります。可能なら画面と声を録画しておきます。
ステップ5. 分析して直す
観察が終わったら、詰まった場所を「どのタスクの、どの画面で、何人が」つまずいたかで整理します。全員が同じ場所で止まったなら、それは個人差ではなく設計の問題です。優先順位をつけて直し、直したものをまた5人で試す。この往復が改善の実体です。
準備するもの(最低限)
- 操作してもらう画面(本番でも試作でも可)
- タスクを書いた紙、または進行台本
- 画面と発話を録画できる端末(PCやスマホでも可)
- 進行役1人(できれば記録役をもう1人)
ユーザビリティテストは何人でやるか(5人テストの根拠)
「たった5人で足りるのか」は、最もよく聞かれる疑問です。答えは、5人で使いにくさのおよそ85%が見つかるから、です。これはヤコブ・ニールセン氏の調査で示された数字で、被験者を増やしても同じ問題を何度も見つけるだけで、発見の効率は急激に下がっていきます(出典: Nielsen Norman Group「Why You Only Need to Test with 5 Users」(2000年))。
だからこそ、15人で一度だけ調べるより、5人で3回に分けて、間で直しながら回すほうが多くの問題を潰せます。人数を追わず、回数で追う。これが小さく回すユーザビリティテストの核心です。
ユーザビリティテストの種類(自分の状況で選ぶ)
やり方は一つではありません。目的と手元の予算で、次の3つの軸から選びます。
分類の軸 | 種類 | 向いている場面 |
|---|---|---|
データの性質 | 定性/定量 | 原因を知りたいなら定性、良し悪しを数字で比べたいなら定量 |
実施の場所 | 対面/リモート | 手元や表情まで見たいなら対面、遠方や短時間ならリモート |
進行役の有無 | モデレートあり/なし | 深掘りしたいならモデレートあり、数を安く集めたいならなし |
小さく回す段階では、定性・リモート・モデレートありの組み合わせがいちばん始めやすいです。理由を深掘りでき、場所を選ばず、道具もほとんど要りません。数字で優劣を比べたくなったら、定量やモデレートなしを足していきます。
ユーザビリティテストでよくある失敗
つい誘導してしまう
被験者が詰まると、進行役は助けたくなります。しかし「そこは右上ですよ」と言った瞬間、テストは自分の答え合わせに変わります。誘導した時点で、見つかるはずだった問題は隠れてしまいます。黙って見る勇気が、いちばんの技術です。
一度きりで終わらせる
テストは、作って試して直す往復で効いてきます。一度やって満足すると、直した結果が良くなったのかを確かめられません。改修の節目ごとに小さく繰り返すのが前提です。
感想を集めて満足する
「使いやすかったです」という感想は、ほとんど改善に使えません。見るべきは言葉ではなく、どこで手が止まったかという行動です。良い評価に安心せず、詰まった数秒を記録します。
今日から簡易に回すコツ
身構えるほど、始められなくなります。完璧な準備を待つより、今日一人に頼むほうが早いです。試作段階の画面でも、紙に印刷した画面でも、テストはできます。まずは社内の一人にタスクを渡し、隣で黙って見るところから始めてください。アームの経験では、1回15分のテストでも、改善点が見つからなかったことはありません。この身軽さが、管理画面やフォームのような地味だが効く改善と相性の良い理由です(管理画面のUI改善はどこから始めるかもあわせて参考にしてください)。
アームのユーザビリティテストの考え方
作り直す前に、まず一人に見せる
使いにくいと言われると、つい画面ごと作り直したくなります。ですが原因が分からないまま作り直しても、詰まりは形を変えて残ります。アームでは、大きく動かす前に、まず一人に操作してもらって原因を切り分けます。
使いにくさの解消を、事業の数字に接続する
使いにくさの解消は、問い合わせ・受注・解約率という数字に直結します。保存の場所が分からず離脱していた管理画面を直せば、解約の芽が一つ減ります。申し込みフォームの詰まりを一つ外せば、同じ広告費のまま問い合わせが増えます。テストは「きれいにする」ためではなく、事業の数字を動かすために回すものだと考えています。取引そのものが画面の上で完結する割合も、年々上がっています。2024年の国内のBtoC-EC市場規模は26.1兆円、物販系分野のEC化率は9.8%、BtoB-ECのEC化率は43.1%でした(出典: 経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」(2025年8月公表))。画面の使いやすさが、そのまま取引の成否に触れる場面が増えているということです。業務システムやSaaSのように毎日使われる画面ほど、この効き目は大きくなります(業務システムUIUXデザイン)。
公開して終わりにせず、育てられる形にする
一度のテストで終わらせず、直して試すを続けられる状態まで設計します。問い合わせや申し込みが増えない原因を、感覚ではなく観察で切り分けたい方は、ホームページで集客できないもあわせてご覧ください。
ユーザビリティテストの進め方や、どこから手をつけるかで迷ったら、要件の整理からで構いませんので、ユーザビリティテストの進め方から相談するところから始めてみてください。
よくある質問
ユーザビリティテストは何人で行えばいいですか?
定性的に問題を見つける目的で、ユーザー群が1つの場合は、まずは5人で十分です。5人で使いにくさのおよそ85%が見つかるとされ、残りを追うより、直して再テストするほうが効率的です。なお同じ出典では、数字で良し悪しを比べる定量調査は20人、カードソートは15人、ユーザー群が複数ある場合は群ごとに3〜4人が目安とされており、目的によって必要な人数は変わります。
費用や準備物は最低限どのくらい必要ですか?
操作してもらう画面(試作でも可)、タスクを書いた紙、録画できる端末があれば始められます。特別な機材やツールがなくても、今日から始められます。
社内の人に頼んでも意味がありますか?
本番の精度は実ユーザーに劣りますが、明らかな詰まりは社内の一人でも見つかります。まず回すことを優先し、重要な意思決定は実ユーザーで確かめます。
アンケートやアクセス解析とどう使い分けますか?
アクセス解析は「どこで離脱したか」は分かっても「なぜか」は分かりません。理由を知りたいときに、ユーザビリティテストが効きます。
オンラインと対面はどちらがいいですか?
遠方や短時間ならオンライン、細かい表情や手元まで見たいなら対面が向きます。まずは手軽なオンラインで始めても構いません。
どのくらいの頻度でやるべきですか?
一度きりにせず、設計や改修の節目ごとに小さく繰り返すのが理想です。作って試して直す、を習慣にします。
まとめ
ユーザビリティテストのやり方は、突きつめれば「使う人の操作を、隣で黙って見る」ことに尽きます。目的を決め、タスクを渡し、5人で小さく回して直す。大掛かりな準備は要りません。完璧を待つより、まず今日一人に頼むところから始めてください。その一人の止まった数秒が、売上や問い合わせ、解約率を動かす最初の手がかりになります。
アームは、テストの設計から観察、その先の画面の改善までを、お客様の事業の数字に結びつけながらお手伝いしています。まず1人分の観察から始めるだけでも構いませんので、よければ最初の1人のテスト設計を相談するところからお声がけください。




